現在の印刷技術に繋がる過去の成長・発展を
前史・紙の発明から写真の発明までの歴史を紹介。
紙は中国で発明され、世界へ広まっていった
紀元前2000年以上のはるか昔、メソポタミア地方では、文字を粘土板に楔で刻みつけ天日で乾燥させることで記録していたのですが、エジプトではさらに遡る紀元前3000年から、水草(カヤツリ草)の茎を裂いて縦横に隙間なく貼り合わせ、板状に薄く伸ばしてつくった「パピルス」を書写材として利用していました。その表面に、煤とアラビアゴムを混ぜた墨で文字を書いていたのです。粘土板への刻字に比べて身近で、かつ素早く書けるという優れた利点があったため、地元エジプトでは盛んに使われていました。6世紀頃には、海を渡ったローマ市内で、巻紙のかたちをした書物が書店などで売られていたそうです。そのローマでは、羊の皮を石灰水でなめして平滑に仕上げた「パーチメント」(羊皮紙)が用いられるようになりました。各段に耐久性に富み、かつ表面が細密な彩色に適していたこともあって、聖書や冊子本などに積極的に使われました。ヨーロッパにあって羊皮紙本は、10世紀にパピルスに取って代わってから13世紀に紙が伝わるまで、長い間、記録媒体として主流の座にあったのです。
印刷と切っても切れない関係にある「紙」が発明されたのは、中国の後漢時代です。当時、官廷の役人だった蔡倫という人が、木の皮や麻などの植物繊維を砕いて抄いたのが始まりです。西暦105年のことでした。それまで使われていた竹簡や木簡と比べてはるかに優れた、書写のための画期的な材料であることが認められたのです。現代につながる製紙技法の誕生です。
蔡倫が考え出した製法は、610年に高句麗(朝鮮半島北部)を通して日本にも伝えられました。現在ある和紙は、この紙を改良したものといわれています。一方、西方へは、重要な東西交易路だったシルクロードを通って伝搬していきました。8世紀にサラセン帝国領内のサマルカンド、バグダッド、10世紀にアフリカのカイロ、11世紀にリビアへと渡っています。その後、モロッコを経て、12世紀の中頃にヨーロッパ本土に入りスペイン、フランス、イタリア、さらに15世紀になってドイツ、イギリスまで製法が伝わっていったのです。
中国から1300年以上の長い年月をかけて延々と伝搬していった紙は、ルネッサンス時代を迎えていた当時のヨーロッパ社会で、グーテンベルグによる活版印刷の発明と相まって、近代化と文芸復興に大きな役割を果たしたのでした。
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