- 自費出版を考える
- 自費出版にチャレンジする
- 書籍/雑誌のかたちを知る
- 出版印刷の基礎知識を学ぶ
- 印刷を発注、出来上がりを待つ
- 実際の打ち合わせ
(1)仕様の決定
(2)費用見積り - 著者が取り組むこと
(1)原稿の提出
(2)納期の約束
(3)校正/校了 - 本の完成
(1)納品受領
(2)代金支払い
(3) 進呈・配布
- 実際の打ち合わせ
- 「電子出版」の動向を聞く
印刷会社に何回か足を運ぶうちに、営業マンのNくんとも親しくなりました。Tさんは、最近のニュースなどで強い関心をもっていた「電子出版」の状況について聞いてみたくなりました。Nくんの紹介で、制作部署に所属するベテラン社員のEさんから、ひと通りの話を聞くことができました。Tさん自身が今すぐ、電子出版に取り組むというわけではないのですが、作成した原稿データをもっている以上、参考として、最近の動向を知っておきたかったのです。TさんとEさんとの間には、以下のような会話が交わされました。
Tさん自身も、このような話を聞く機会が得られ、大いに納得したのでした。
・最近、電子書籍が話題となっていますが、どんな状況にあるんですか?
「日本では2010年が電子書籍元年といわれましたが、当初は従来の出版概念に捉われていたせいか、立ち上がりが随分鈍かったのです。しかし、その後、携帯電話に加えてスマートフォンやタブレット端末が急速に普及したため、電子書籍の環境が整いました。読者がこれらのリーダーを使うことで、好きなコンテンツをいつでも即時に読めるようにと、電子出版ビジネスに拍車がかかってきました。日本の電子出版市場は、2015年を過ぎる頃に2,000億円に達すると見込まれているくらいなんですよ」・だから、電子書籍についてのニュースが目につくわけですね。
「コンテンツをWebベースで配信する電子書籍サービスをおこなう企業が続々と出現しています。出版社のほかにもIT企業などが次々と参入しています。電子書店は、いってみればネット上のデジタル本屋さんに当たるもので、これを活用することで、革新的な出版社がそれぞれ独自方向で電子出版を展開するようになったのです。可読性に優れたリーダー端末、日本語組版に対応した表示ソフトの開発/進化と相まって、ネット配信用コンテンツの品揃えが一気に進み、電子出版の点数がアメリカみたいに増えていくのは間違いありません」・電子書籍を手掛ける業界サイドの動きはどうですか?
「このような電子出版ビジネスを一段と前進させるために、政府の支援のもとに大手の印刷会社と出版社が集まって『出版デジタル機構』を設立しています。コンテンツデータの制作やフォーマットの変換などに関して、お互いに協力していこうというのが目的です。出版各社の代わりに電子書籍データを制作し、電子書店に配信していくことになります。デジタルデータをもつ印刷業界と版権を有する出版業界が、一丸となって電子書籍の普及をめざしていく体制ができたわけです」・電子書籍をつくるソフトの共有化が必要なのではないですか?
「アメリカの有力なIT企業や日本の大手印刷会社、電気メーカーが参加しているIDPFという電子書籍のための標準化機関があり、そこが発表したEPUB(イーパブ)という電子書籍フォーマットが、これから事実上のグローバルスタンダードとなっていくことでしょう。XMLをベースとしたオープンな電子ブックフォーマットです」・それはどのような特徴をもっているのですか?
「この標準フォーマットは、活字文章に最適化されたソフトです。文芸書、新書、文庫本から雑誌、コミック、教育所、学参ものまでを含むあらゆる分野のコンテンツが効率的に制作可能となるでしょう。EPUBを使えばスマートフォンやダブレット端末で閲覧できるのはもちろん、Webサイトへリンクさせてパソコンでコンテンツを読むこともできるようになります。端末画面では文字の拡大/縮小、ページめくり、しおり挿入などがタッチ操作で簡単におこなえるのが特徴です。まるで紙の本を扱っているかのような読書体験が得られますよ」・それは頼もしいですね。将来をどう見通しますか?
「Tさんもご存じのPDFは、レイアウトとか絵柄に適したフォーマットして、チラシやカタログの送受信、電子メディア化に活用されています。これと同じことを活字中心の図書の領域で実践しているのが、電子書籍とお考えいただいていいのです。それほど身近なのですから、これからは印刷した紙メディアの書籍と、デジタルメディアである電子書籍が、双方の特徴や利点を発揮し合いながら、車の両輪のように共存していくことになるでしょう。新たなメディアミックスの実現ですね」・印刷会社も積極的に関わっていかないといけませんね。
「かつては電子出版というと、印刷用のデータをCD-ROMに焼き付けて販売することを指していましたが、これでは紙がCDに変わったに過ぎませんでした。しかし今では、同じ印刷用データであってもネット上で提供するというかたちに変わったのです。紙媒体である図書にはそれなりの文化がありますので、印刷会社としては、その特徴を十分に考慮に入れながら、新しい出版印刷ビジネスの可能性を切り拓こうとしています」・どのようなかたちのビジネスが考えられているんですか?
「電子出版に関して中小の印刷会社が取り組むべきビジネスモデルは、電子書籍の制作サービスになると思います。出版社や編集プロダクションといったクライアントの仕事を代行する仕事です。これまで印刷物をつくるためのDTP作業で培ってきたノウハウを、今度は電子書籍をつくるために活かせばいいということになります。プリプレス工程の能力をそのまま発揮できます」・なるほど。それは強みになりますね。
「制作したデータを電子書籍として出力すると同時に、オフセット印刷あるいはデジタル印刷によって紙メディアにも流用できることを提案すれば、印刷会社ならではの付加価値の大きな、差別化した新しいビジネスモデルが成り立つのです。どちらのメディアに対しても同じような感覚で取り組めることは、印刷会社にとって何といっても強みとなります。そこが存在感を主張したいところです。ご参考までに、PDFをベースにすれば、デザインやレイアウトが含まれているカタログやパンフレット、チラシといった商業印刷物をオンライン出版することも可能ですので、顧客企業のマーケティング活動をお手伝いすることもできるんですよ」Tさん自身も、このような話を聞く機会が得られ、大いに納得したのでした。
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