- 自費出版を考える
- 自費出版にチャレンジする
- 書籍/雑誌のかたちを知る
- 出版印刷の基礎知識を学ぶ
- 印刷を発注、出来上がりを待つ
- 実際の打ち合わせ
(1)仕様の決定
(2)費用見積り - 著者が取り組むこと
(1)原稿の提出
(2)納期の約束
(3)校正/校了 - 本の完成
(1)納品受領
(2)代金支払い
(3) 進呈・配布
- 実際の打ち合わせ
- 「電子出版」の動向を聞く
原稿の執筆は容易ではありませんでしたが、半年ほどをかけて、ようやく形が見えるところまで漕ぎつけました。完全原稿に向けて何度も読み返し、そのつど、書き直しや追加・削除を繰り返しながら、いよいよ最終段階を迎えようとしています。そうなると、次の気になるのは、印刷や製本を具体的にどうするかです。これらについても、印刷会社のNくんが手持ちの資料を説明しながら丁寧に伝授してくれました。
洋紙はさらに、表面処理されていない非塗工紙と、平滑度を高めるために表面に塗料を塗った塗工紙とに分類されます。書籍や雑誌の本文用紙として多く使われているのは、このうちの非塗工紙で、さらに、化学パルプの含有量に応じて印刷用紙A(上質紙)、同B(中質紙)、同C(上更紙)、同D(更紙)、グラビア用紙、印刷せんか紙(下級紙)といった分類がなされています。通常は印刷用紙Bが本文用紙として使われているようです。
塗工紙としては、上質紙あるいは中質紙の表面に塗る塗工量に応じて超高級なキャストコート紙から順にアート紙(A1)、コート紙(A2/B2)、軽量コート紙(A3)、さらに微塗工紙といった具合に分けられています。本のカラーページや表紙カバーには、コート紙が使われるのが一般的です。
この他、紙自体に染料を含ませた色上質紙、厚紙に特殊な加工を施した特殊紙、あるいは古紙を一定の範囲で含ませた再生紙、木材以外の原料を用いた非木材紙などがあります。質感や手触り感、デザイン性、訴求力を高める狙いから、表紙にこれらの紙を使用している本も少なくありません。
印刷用紙には、印刷や製本加工に適するよう、周囲に余白をもたせた規格寸法が定められています。A系列本判(少し大きめの菊判というサイズもあります)の原紙から半分ずつ断裁、あるいは折っていくことによって、A全判、A半裁判(A2判)、A3、A4、A5判といった製品の仕上がりサイズが得られます。同様に、B系列本判(同じく四六全判)の原紙からはB全判、B半裁判(B2判)、B3、B4、B5判といった仕上がりサイズが得られるのです。
書籍・雑誌の分野では、代表的な例として週刊誌はB5判、単行本はA5判やB6判が数多く使われています。A判とB判の長さを縦/横に適宜組み合わせた変型判もあり、現実に文庫本のような本の判型として採用されています。また逆に、全判の倍のサイズを倍判、4倍のサイズを4倍判と呼んでいます。
「A全判またはB全判の紙を3回、十文字に折ると、両面で16ページのA4判、B4判の折丁ができます。もう一回折れば32ページのA5判、B5判の折丁ができることになります。実際に紙を折って確かめてみると、よくお解りになると思いますよ」とNくん。
「扱いやすさ、読みやすさを考慮しながら、基本的にどのサイズを選んでも構わないのですが、本の大きさと総ページ数から逆算すれば、どんな大きさの印刷機にかければいいのか、また何回、印刷しなければならないかが分かります。無駄な用紙が発生しないよう、余分な印刷コストがかからないよう、用紙と印刷機の整合性をしっかりと把握しておく必要があります」。
・厚さについて
印刷用紙を考えるとき、このほかに厚さと流れ目という要素をみなければいけません。
洋紙の取引は原則として、全判1,000枚を1連という単位(斤量)に換算しておこなわれるのですが、紙の厚さはこの1連を基準に重さで表現しています。枚数が1,000枚で同じとするなら、重さイコール厚さということになります。一般的に「菊判○○キログラム」「四六判○○キログラム」といったりします。書籍や雑誌の場合、四六判55キロ(菊判38キロ)または四六判70キロ(菊判48.5キロ)が通常使われているようです。もちろん少し厚めの四六判90キロ(菊判62.5キロ)を使ったとしても一向に構いません。
Nくんは「あまり薄い紙だと裏面に印刷してある文字が透けて見えますし、白過ぎる紙では光が反射して可読性が悪くなります。紙の見本帳をお渡ししておきますから、よくお考えのうえでご相談に乗ります」といってくれました。
・流れ目について
製紙マシーンによって紙が連続して抄造されるとき、紙の原料であるパルプ繊維も、流れの方向に沿った状態で並んでいきます。最終工程で巻取紙のかたちに巻取るのですが、枚葉紙にするには、さらにこの巻取紙を解いて全判サイズに断裁していきます。このとき、紙の長辺に目が平行となっているものを「縦目」と呼んでいます。短辺に平行なものは「横目」といいます。半裁すれば長辺が横目、短辺が縦目となり、以下、半分に切るごとに奇数の判型なら縦目、偶数なら横目と交互に入れ替わっていきます。このような関係にありますので、縦目あるいは横目のどちらの紙にしたらいいのか、慎重に選ばなければなりません。
「縦目の方向に紙を破っていただくと、パルプ繊維が邪魔しないので破れやすく、横目の方向では繊維が直角になっているので破れにくいことが判ります。また、縦目は折り曲げやすく、横目は折り曲げにくいのです。本をつくるときは、つねに本の背(綴じ側)と平行に流れ目がくるように、本の判型、印刷機にかける紙のサイズ、折丁にしたときのページ数を考える必要があります。繊維が本の背と直角に入っていると、ページが開きにくくなるし、小口(めくる側)も波打ってしまって、手触りも見栄えも悪くなるので注意しなければいけません」。Nくんはあくまで親切に説明してくれました。
発注者は自分のパソコンで入力したデータを印刷会社に持ち込めば、このDTPによって編集加工をしてもらうことができます。このとき使われるソフトとして、クォークエクスプレス、イラストレーター、フォトショップ、インデザインなど、お馴染みのものが揃えられています。また、原稿作成用としては、より身近なワード、エクセル、アクセス、オープンオフィスなどが使われます。
「文字組版はもちろん、ビジュアルな画像処理、編集レイアウトが一つのディスプレイ画面上で、殆んど同時進行的に作業できるのが強みなのです。プリプレスの工程はどんどん短縮化され、少人数のオペレータでこなせるようになっています。Tさんからは今回、CDやUSBメモリーで原稿をお持ちいただくことになると思いますが、今ではインターネットや企業間ネットワークを利用して、データを送受信することが普通になっているのですよ」とNくんは言う。
・文字について
「今回の仕事は本づくりということですので、文字に関する知識をもう一つお教えしましょう」と切り出し、Nくんが話してくれた内容は次のようなことでした。
同じ書体の文字をワンセットにした捉え方に『フォント』という言葉があるのですが、デジタルで文字を形成する技術して、固定のマス目(ドットマトリックス)を白い点または黒い点で埋めていくビットマップフォントと、文字の周囲を直線または曲線で囲み、その輪郭線の内側を黒で埋めるアウトラインフォントの2種類があります。アウトラインフォントの方が文字の大きさや位置、変形加工などが自由におこなえ、しかも出力した後の解像度も維持できるので、コンピュータの性能がよくなった現在では、このアウトラインフォントが一般化しています。
・カラー写真について
書籍や雑誌にも数多く掲載されるようになったカラー写真の再現はどうするのか。Tさんも日常見ている印刷物から、濃淡を点の大きさで表わした各色の「網点」を重ねていって再現することぐらい知っていましたが、デジタル化の時代、それ以上のことは疑問になっているままでした。Nくんに聞くと「デジタル出力されるドットの密度で濃淡を表現します。本のカラーページをよくご覧になって確かめてください。網点の場合は間隔が狭いほど、デジタルドットの場合は大きさが小さいほど、印刷の精度がよいというわけです」との回答がずばり返ってきました。
さらにNくんは「パソコンやDTPのカラーはRGB(赤/緑/青紫)の3色を合成することで表現していますが、印刷の場合は、写真をいったんCMYK(藍/紅/黄/墨)の4色に分解してから、4枚の版にそれぞれ出力して印刷機械で再び刷り重ねています。印刷会社では、特殊な画像処理ソフトを使って、光の3原色(RGB)から色の3原色(CMYK)へ変換しているのですよ」と教えてくれました。
CTPのプレートには、熱によって変化する樹脂を塗布したサーマル型、より高感度な銀塩感光剤を塗布した銀塩型、紫外線によって硬化する仕組みを利用したフォトポリマー型があります。熱による反応を利用するサーマル型の場合、自動現像機や暗室が不要というメリットがあり、広く使われるようになっています。
「本のページ数と色数によって、何枚の刷版が必要となるかが判ります。どんな判サイズの何色刷りの印刷機にかけなければいけないかも判断できます。刷版は印刷する部数に関係なく、原則として各色1枚は必要ですので、自動的にコストが計算できます。だからこそ本をつくるときは、区切りのよいページの取り方や折丁ごとの色数の選択が、非常に大切なのです」とNくん。
・オフセット印刷について
平版方式とは、平らな刷版(プレート)の上に親油性の画線部と親水性の非画線部をつくり、インキと湿し水が反発する原理を利用して印刷するものです。版に水を着けるため、直接、紙に刷るわけにはいきません。そこで、ブランケット胴(ゴム胴)を版胴と圧胴の間に挟んで、インキをいったんこのブランケット胴に転写し、それから紙に間接的に移すという方法をとっています。刷版の製版が他の印刷方式と比べて容易で、手扱い(作業性)もよく、加えて満足のいく高い品質が得られることから、現在では、平版オフセット印刷方式が中心的な存在となっているといってよいでしょう。
参考までに、離してセットするという意味で「オフセット」と称しているのです。「凸版印刷でもグラビア印刷でも、オフセット方式でおこなう場合があるんですよ。表面に凹凸があって平滑度が低い用紙に印刷するときなど、インキが着きやすくなって効果的なのです」と、知識を披歴するNくんは少し自慢げでした。
肝心の印刷インキについてはどうなのでしょうか? 印刷インキは大まかに顔料とビヒクルという成分から成りなっています。顔料は文字どおり色材のことで、これによって印刷のカラーを表現します。一方、乗り物を意味するビヒクルには樹脂や溶剤が含まれていて、顔料を紙の表面に定着(浸透/固着)させる役割を担っています。印刷物の光沢度や対摩耗性は、このビヒクルが有する特性にかかっているのです。印刷に必要なCMYK(青紅黄墨)の基本4色を刷れるインキを、とくにプロセスインキと称していますが、この他にも、特別の色彩を刷るための特色インキ、金銀パール、蛍光色などを印刷するための特殊インキがあります。
・デジタル印刷について
オフセット印刷などは、刷版が使われていますので有版方式であるのに対し、最近、普及してきたデジタル印刷は、刷版を必要としないため無版方式といわれています。
デジタル印刷には、画像をトナーで転写する電子写真方式、または液体のインクを吐出して形成するインクジェット方式があります。どちらもDTPからのデータを出力(プリントアウト)することで、そのまま印刷物にできるのが特徴です。刷版を使わなくていいので、作業工程が一段と短縮されました。A3伸び判あるいは半裁クラスの枚葉タイプのデジタル印刷システムが普及してきて、オフセット印刷機とコピー機の中間の印刷市場を担うようになってきたのです。
印刷品質もオフセット印刷と比べて遜色のないレベルにまで向上し、しかも刷版を使わなくて済むため、小部数の印刷に適するという利点があります。ちょっとした商業印刷物やパーソナル印刷物はもちろん、ページものにもどんどん採用されるようになっています。「それほど印刷しない自費出版の分野でも、積極的に利用されているようですよ」と、Nくんからフォローされてしまいました。 自費出版とは、選んだ分野にかかわらず、原則として「本」を製作するわけですから、書籍とか雑誌の形態を知る必要があります。Tさんが気にしたのもこの点です。そこで、印刷会社に出入りしている製本会社を紹介してもらい、資料をもらってきました。いずれ印刷を依頼する段階になったら、自分でどんな本にするかを具体的に決めなければいけないからです。
製本の形態には、厚紙の硬い表紙で装丁した「上製本」と、中厚の柔らかな表紙で包んだ「並製本」の2種類があります。上製本の場合、表紙の加工には美しく豪華に、しかも長持ちできるように、高度な工夫が凝らされています。一方、並製本の場合は、かつて仮製本と呼ばれていたことがあるように、利用本位の観点から比較的簡単に仕立ているのが特徴です。
・綴じ方について
製本をするとき必ず検討しなければいけないのが綴じる方式です。これには、折丁を外側に被せていってから、折り部分を針金でホッチキスのように一気に綴じる「中綴」、折丁を平らに重ねて上から針金で綴じる「平綴」、重ねた折丁の脊を削り落として一緒に糊付けする「無線綴」、折丁を一つずつ糸でかがる「糸綴」があります。折丁の脊にスリット状の穴を明けて糊付けする「アジロ綴」は、無線綴の一種です。
中綴や平綴は表紙も一緒に綴じることができるメリットがありますが、可能な枚数に制限があり、週刊誌とか資料類の製本に限られています。これに対し、糸綴は上製本、無線綴は並製本と相性がよく、ほとんどの書籍・雑誌はこのいずれかによって製本されています。どちらも綴じた後で表紙を包むかたちとなっています。
・折丁について
折丁を台割に従って並べる(丁合する)順番が、被せる中綴じと重ねるその他の綴じ方法とは根本的に異なっていますので、印刷用紙1枚ごとにどのように面付け(ページ付け)するかが重要な要件となります。印刷機のサイズ、紙の大きさ、製本の判型によって、折れる回数、つまり面付けできるページ数が限定されてきますので、こうした条件も合わせて検討する必要があります。
この辺の専門的なことは、印刷会社がおこなってくれるので心配いりません。乱丁や落丁については、製本会社が責任をもって未然にチェックしてくれるという話です。「縦組の右開きと横組の左開きとでは、面付けするときの各ページの位置は同じでも、ページの向きが天地逆になっているのですよ」とは、Nくんから教えられたことでした。「用紙の選択と同様、どの製本方法を採用してもよいのですが、やはり同じように、体裁や費用を考えてムリのないものを選ぶべきです」ともいわれました。Tさんとしても納得です。
書籍の表紙には大抵、きれいなカバーがシート状にくるまれています。さらにその外側に、PRコピーが書かれた帯が巻かれているものも見受けられます。コート紙を使った表紙カバーの表面には大抵、合成樹脂をコーティングしたり、フィルムをラミネートしたりする「光沢加工」が施されていて、書籍の耐久性や美装性を高めるのに重要な役割を果たしています。訴求力のあるデザインと相まって書籍に高級感や存在感、いってみれば“個性”をもたせているのです。出版印刷物の付加価値を一層高めるために、ぜひとも必要な仕上げ加工といわれています。
光沢加工には、「塗り」と「貼り」という基本的な技法があって、合成樹脂を塗る前者からは「光沢コート」、フィルムを接着剤で貼る後者からは「ラミネート」という方法が生まれています。このほか「塗り押し」という新しい技法もあり、樹脂を塗ってから熱圧着する「プレスコート」、樹脂を紫外線で硬化させたあとでフィルムをがす「UVラミネート」という方法も使われているとのことです。
これらの技法を縦横に使い分けることで、光沢が得られるグロス加工、より美しい鏡面となる艶出し加工、艶消し効果のあるマット加工、さらには彩色表現が可能なホログラム加工、表面に微妙な凹凸をつくるエンボス加工、部分的に光沢を出すスポット加工など、さまざまな表現加工が可能になることも話してくれました。
Tさんにとって、どの方法が自分の本の表紙に適しているか、全くわかりません。とりあえず、書店に並んでいるたくさんの書籍の表紙を見て、気に入ったものを印刷会社に伝えて、相談するしかありません。紙の質感がそのまま得られる色上質紙を使用する場合、光沢加工をおこなう必要はなさそうなので、もう少し検討してみることにしました。
参考資料:
製本に関して詳しくお知りになりたい方は こちらを ご覧ください。
(1)用紙の種類
印刷する以上、情報を載せる媒体としての用紙が欠かせません。現在、一般的に印刷用に使われている紙には、薄い洋紙と厚い板紙がありますが、ここでは前者についてご紹介しておきましょう(ちなみに後者は紙器用、パッケージ用に使われます)。モノクロの文字が中心の書籍や雑誌など出版印刷物は、写真が多いカラー刷りのチラシ、カタログ、ポスターなど商業印刷物以上に、用紙が果たす役割は重要となりますので、真剣に考えておかなければなりません。洋紙はさらに、表面処理されていない非塗工紙と、平滑度を高めるために表面に塗料を塗った塗工紙とに分類されます。書籍や雑誌の本文用紙として多く使われているのは、このうちの非塗工紙で、さらに、化学パルプの含有量に応じて印刷用紙A(上質紙)、同B(中質紙)、同C(上更紙)、同D(更紙)、グラビア用紙、印刷せんか紙(下級紙)といった分類がなされています。通常は印刷用紙Bが本文用紙として使われているようです。
塗工紙としては、上質紙あるいは中質紙の表面に塗る塗工量に応じて超高級なキャストコート紙から順にアート紙(A1)、コート紙(A2/B2)、軽量コート紙(A3)、さらに微塗工紙といった具合に分けられています。本のカラーページや表紙カバーには、コート紙が使われるのが一般的です。
この他、紙自体に染料を含ませた色上質紙、厚紙に特殊な加工を施した特殊紙、あるいは古紙を一定の範囲で含ませた再生紙、木材以外の原料を用いた非木材紙などがあります。質感や手触り感、デザイン性、訴求力を高める狙いから、表紙にこれらの紙を使用している本も少なくありません。
(2)紙がもっている特性
・規格寸法について印刷用紙には、印刷や製本加工に適するよう、周囲に余白をもたせた規格寸法が定められています。A系列本判(少し大きめの菊判というサイズもあります)の原紙から半分ずつ断裁、あるいは折っていくことによって、A全判、A半裁判(A2判)、A3、A4、A5判といった製品の仕上がりサイズが得られます。同様に、B系列本判(同じく四六全判)の原紙からはB全判、B半裁判(B2判)、B3、B4、B5判といった仕上がりサイズが得られるのです。
書籍・雑誌の分野では、代表的な例として週刊誌はB5判、単行本はA5判やB6判が数多く使われています。A判とB判の長さを縦/横に適宜組み合わせた変型判もあり、現実に文庫本のような本の判型として採用されています。また逆に、全判の倍のサイズを倍判、4倍のサイズを4倍判と呼んでいます。
「A全判またはB全判の紙を3回、十文字に折ると、両面で16ページのA4判、B4判の折丁ができます。もう一回折れば32ページのA5判、B5判の折丁ができることになります。実際に紙を折って確かめてみると、よくお解りになると思いますよ」とNくん。
「扱いやすさ、読みやすさを考慮しながら、基本的にどのサイズを選んでも構わないのですが、本の大きさと総ページ数から逆算すれば、どんな大きさの印刷機にかければいいのか、また何回、印刷しなければならないかが分かります。無駄な用紙が発生しないよう、余分な印刷コストがかからないよう、用紙と印刷機の整合性をしっかりと把握しておく必要があります」。
・厚さについて
印刷用紙を考えるとき、このほかに厚さと流れ目という要素をみなければいけません。
洋紙の取引は原則として、全判1,000枚を1連という単位(斤量)に換算しておこなわれるのですが、紙の厚さはこの1連を基準に重さで表現しています。枚数が1,000枚で同じとするなら、重さイコール厚さということになります。一般的に「菊判○○キログラム」「四六判○○キログラム」といったりします。書籍や雑誌の場合、四六判55キロ(菊判38キロ)または四六判70キロ(菊判48.5キロ)が通常使われているようです。もちろん少し厚めの四六判90キロ(菊判62.5キロ)を使ったとしても一向に構いません。
Nくんは「あまり薄い紙だと裏面に印刷してある文字が透けて見えますし、白過ぎる紙では光が反射して可読性が悪くなります。紙の見本帳をお渡ししておきますから、よくお考えのうえでご相談に乗ります」といってくれました。
・流れ目について
製紙マシーンによって紙が連続して抄造されるとき、紙の原料であるパルプ繊維も、流れの方向に沿った状態で並んでいきます。最終工程で巻取紙のかたちに巻取るのですが、枚葉紙にするには、さらにこの巻取紙を解いて全判サイズに断裁していきます。このとき、紙の長辺に目が平行となっているものを「縦目」と呼んでいます。短辺に平行なものは「横目」といいます。半裁すれば長辺が横目、短辺が縦目となり、以下、半分に切るごとに奇数の判型なら縦目、偶数なら横目と交互に入れ替わっていきます。このような関係にありますので、縦目あるいは横目のどちらの紙にしたらいいのか、慎重に選ばなければなりません。
「縦目の方向に紙を破っていただくと、パルプ繊維が邪魔しないので破れやすく、横目の方向では繊維が直角になっているので破れにくいことが判ります。また、縦目は折り曲げやすく、横目は折り曲げにくいのです。本をつくるときは、つねに本の背(綴じ側)と平行に流れ目がくるように、本の判型、印刷機にかける紙のサイズ、折丁にしたときのページ数を考える必要があります。繊維が本の背と直角に入っていると、ページが開きにくくなるし、小口(めくる側)も波打ってしまって、手触りも見栄えも悪くなるので注意しなければいけません」。Nくんはあくまで親切に説明してくれました。
(1)プリプレス
デジタル技術隆盛の時代にあって、印刷の前工程の担い手として活躍しているのがDTPです。これは、パソコンに小型のスキャナやカラープリンタなどを組み合わせたもので、文字の組版、イラストの作成、写真の取り込み、レイアウト処理を含めたページアップ編集を1台でこなしてしまえる万能型のプリプレス機器となっています。接続されているカラープリンタから、加工済のページアップデータがカンプまたは校正刷りのかたちで出力されます。発注者は自分のパソコンで入力したデータを印刷会社に持ち込めば、このDTPによって編集加工をしてもらうことができます。このとき使われるソフトとして、クォークエクスプレス、イラストレーター、フォトショップ、インデザインなど、お馴染みのものが揃えられています。また、原稿作成用としては、より身近なワード、エクセル、アクセス、オープンオフィスなどが使われます。
「文字組版はもちろん、ビジュアルな画像処理、編集レイアウトが一つのディスプレイ画面上で、殆んど同時進行的に作業できるのが強みなのです。プリプレスの工程はどんどん短縮化され、少人数のオペレータでこなせるようになっています。Tさんからは今回、CDやUSBメモリーで原稿をお持ちいただくことになると思いますが、今ではインターネットや企業間ネットワークを利用して、データを送受信することが普通になっているのですよ」とNくんは言う。
・文字について
「今回の仕事は本づくりということですので、文字に関する知識をもう一つお教えしましょう」と切り出し、Nくんが話してくれた内容は次のようなことでした。
同じ書体の文字をワンセットにした捉え方に『フォント』という言葉があるのですが、デジタルで文字を形成する技術して、固定のマス目(ドットマトリックス)を白い点または黒い点で埋めていくビットマップフォントと、文字の周囲を直線または曲線で囲み、その輪郭線の内側を黒で埋めるアウトラインフォントの2種類があります。アウトラインフォントの方が文字の大きさや位置、変形加工などが自由におこなえ、しかも出力した後の解像度も維持できるので、コンピュータの性能がよくなった現在では、このアウトラインフォントが一般化しています。
・カラー写真について
書籍や雑誌にも数多く掲載されるようになったカラー写真の再現はどうするのか。Tさんも日常見ている印刷物から、濃淡を点の大きさで表わした各色の「網点」を重ねていって再現することぐらい知っていましたが、デジタル化の時代、それ以上のことは疑問になっているままでした。Nくんに聞くと「デジタル出力されるドットの密度で濃淡を表現します。本のカラーページをよくご覧になって確かめてください。網点の場合は間隔が狭いほど、デジタルドットの場合は大きさが小さいほど、印刷の精度がよいというわけです」との回答がずばり返ってきました。
さらにNくんは「パソコンやDTPのカラーはRGB(赤/緑/青紫)の3色を合成することで表現していますが、印刷の場合は、写真をいったんCMYK(藍/紅/黄/墨)の4色に分解してから、4枚の版にそれぞれ出力して印刷機械で再び刷り重ねています。印刷会社では、特殊な画像処理ソフトを使って、光の3原色(RGB)から色の3原色(CMYK)へ変換しているのですよ」と教えてくれました。
(2)刷版
校正を終えたページアップデータは、レーザー光源を出力できるプレートセッターで直接、刷版(プレート)の表面に出力されます。この工程は、コンピュータから直に刷版にデジタルデータがいくという意味で、CTP(コンピュータ・トゥ・プレート)と称しています。フィルムに現像しPS版(感光液が塗ってある刷版)に焼き付けるという製版工程は、現在ではもうほとんどおこなわれていません。CTPは、製版工程をフィルムレス化したフルデジタルシステムといえるのです。CTPのプレートには、熱によって変化する樹脂を塗布したサーマル型、より高感度な銀塩感光剤を塗布した銀塩型、紫外線によって硬化する仕組みを利用したフォトポリマー型があります。熱による反応を利用するサーマル型の場合、自動現像機や暗室が不要というメリットがあり、広く使われるようになっています。
「本のページ数と色数によって、何枚の刷版が必要となるかが判ります。どんな判サイズの何色刷りの印刷機にかけなければいけないかも判断できます。刷版は印刷する部数に関係なく、原則として各色1枚は必要ですので、自動的にコストが計算できます。だからこそ本をつくるときは、区切りのよいページの取り方や折丁ごとの色数の選択が、非常に大切なのです」とNくん。
(3)印刷
印刷機には、印刷枚数が比較的少ないときに適した枚葉印刷機と、大量印刷に向く輪転印刷機があり、用いる版式によって凸版印刷機、平版印刷機(オフセット印刷機)、凹版印刷機(グラビア印刷機)、孔版印刷機(スクリーン印刷機)があります。このうち、5千部、1万部といった中ロットの単行本などは、普通、枚葉オフセット印刷機でつくられます。ちなみに、大量に印刷する雑誌とか週刊誌などは、一般的にオフセット輪転印刷機あるいはグラビア輪転印刷機で印刷されています。コミック本などは、柔らかい凸版を使用したフレキソ輪転印刷機でつくっているようです。・オフセット印刷について
平版方式とは、平らな刷版(プレート)の上に親油性の画線部と親水性の非画線部をつくり、インキと湿し水が反発する原理を利用して印刷するものです。版に水を着けるため、直接、紙に刷るわけにはいきません。そこで、ブランケット胴(ゴム胴)を版胴と圧胴の間に挟んで、インキをいったんこのブランケット胴に転写し、それから紙に間接的に移すという方法をとっています。刷版の製版が他の印刷方式と比べて容易で、手扱い(作業性)もよく、加えて満足のいく高い品質が得られることから、現在では、平版オフセット印刷方式が中心的な存在となっているといってよいでしょう。
参考までに、離してセットするという意味で「オフセット」と称しているのです。「凸版印刷でもグラビア印刷でも、オフセット方式でおこなう場合があるんですよ。表面に凹凸があって平滑度が低い用紙に印刷するときなど、インキが着きやすくなって効果的なのです」と、知識を披歴するNくんは少し自慢げでした。
肝心の印刷インキについてはどうなのでしょうか? 印刷インキは大まかに顔料とビヒクルという成分から成りなっています。顔料は文字どおり色材のことで、これによって印刷のカラーを表現します。一方、乗り物を意味するビヒクルには樹脂や溶剤が含まれていて、顔料を紙の表面に定着(浸透/固着)させる役割を担っています。印刷物の光沢度や対摩耗性は、このビヒクルが有する特性にかかっているのです。印刷に必要なCMYK(青紅黄墨)の基本4色を刷れるインキを、とくにプロセスインキと称していますが、この他にも、特別の色彩を刷るための特色インキ、金銀パール、蛍光色などを印刷するための特殊インキがあります。
・デジタル印刷について
オフセット印刷などは、刷版が使われていますので有版方式であるのに対し、最近、普及してきたデジタル印刷は、刷版を必要としないため無版方式といわれています。
デジタル印刷には、画像をトナーで転写する電子写真方式、または液体のインクを吐出して形成するインクジェット方式があります。どちらもDTPからのデータを出力(プリントアウト)することで、そのまま印刷物にできるのが特徴です。刷版を使わなくていいので、作業工程が一段と短縮されました。A3伸び判あるいは半裁クラスの枚葉タイプのデジタル印刷システムが普及してきて、オフセット印刷機とコピー機の中間の印刷市場を担うようになってきたのです。
印刷品質もオフセット印刷と比べて遜色のないレベルにまで向上し、しかも刷版を使わなくて済むため、小部数の印刷に適するという利点があります。ちょっとした商業印刷物やパーソナル印刷物はもちろん、ページものにもどんどん採用されるようになっています。「それほど印刷しない自費出版の分野でも、積極的に利用されているようですよ」と、Nくんからフォローされてしまいました。 自費出版とは、選んだ分野にかかわらず、原則として「本」を製作するわけですから、書籍とか雑誌の形態を知る必要があります。Tさんが気にしたのもこの点です。そこで、印刷会社に出入りしている製本会社を紹介してもらい、資料をもらってきました。いずれ印刷を依頼する段階になったら、自分でどんな本にするかを具体的に決めなければいけないからです。
製本の形態には、厚紙の硬い表紙で装丁した「上製本」と、中厚の柔らかな表紙で包んだ「並製本」の2種類があります。上製本の場合、表紙の加工には美しく豪華に、しかも長持ちできるように、高度な工夫が凝らされています。一方、並製本の場合は、かつて仮製本と呼ばれていたことがあるように、利用本位の観点から比較的簡単に仕立ているのが特徴です。
・綴じ方について
製本をするとき必ず検討しなければいけないのが綴じる方式です。これには、折丁を外側に被せていってから、折り部分を針金でホッチキスのように一気に綴じる「中綴」、折丁を平らに重ねて上から針金で綴じる「平綴」、重ねた折丁の脊を削り落として一緒に糊付けする「無線綴」、折丁を一つずつ糸でかがる「糸綴」があります。折丁の脊にスリット状の穴を明けて糊付けする「アジロ綴」は、無線綴の一種です。
中綴や平綴は表紙も一緒に綴じることができるメリットがありますが、可能な枚数に制限があり、週刊誌とか資料類の製本に限られています。これに対し、糸綴は上製本、無線綴は並製本と相性がよく、ほとんどの書籍・雑誌はこのいずれかによって製本されています。どちらも綴じた後で表紙を包むかたちとなっています。
・折丁について
折丁を台割に従って並べる(丁合する)順番が、被せる中綴じと重ねるその他の綴じ方法とは根本的に異なっていますので、印刷用紙1枚ごとにどのように面付け(ページ付け)するかが重要な要件となります。印刷機のサイズ、紙の大きさ、製本の判型によって、折れる回数、つまり面付けできるページ数が限定されてきますので、こうした条件も合わせて検討する必要があります。
この辺の専門的なことは、印刷会社がおこなってくれるので心配いりません。乱丁や落丁については、製本会社が責任をもって未然にチェックしてくれるという話です。「縦組の右開きと横組の左開きとでは、面付けするときの各ページの位置は同じでも、ページの向きが天地逆になっているのですよ」とは、Nくんから教えられたことでした。「用紙の選択と同様、どの製本方法を採用してもよいのですが、やはり同じように、体裁や費用を考えてムリのないものを選ぶべきです」ともいわれました。Tさんとしても納得です。
書籍の表紙には大抵、きれいなカバーがシート状にくるまれています。さらにその外側に、PRコピーが書かれた帯が巻かれているものも見受けられます。コート紙を使った表紙カバーの表面には大抵、合成樹脂をコーティングしたり、フィルムをラミネートしたりする「光沢加工」が施されていて、書籍の耐久性や美装性を高めるのに重要な役割を果たしています。訴求力のあるデザインと相まって書籍に高級感や存在感、いってみれば“個性”をもたせているのです。出版印刷物の付加価値を一層高めるために、ぜひとも必要な仕上げ加工といわれています。
光沢加工には、「塗り」と「貼り」という基本的な技法があって、合成樹脂を塗る前者からは「光沢コート」、フィルムを接着剤で貼る後者からは「ラミネート」という方法が生まれています。このほか「塗り押し」という新しい技法もあり、樹脂を塗ってから熱圧着する「プレスコート」、樹脂を紫外線で硬化させたあとでフィルムをがす「UVラミネート」という方法も使われているとのことです。
これらの技法を縦横に使い分けることで、光沢が得られるグロス加工、より美しい鏡面となる艶出し加工、艶消し効果のあるマット加工、さらには彩色表現が可能なホログラム加工、表面に微妙な凹凸をつくるエンボス加工、部分的に光沢を出すスポット加工など、さまざまな表現加工が可能になることも話してくれました。
Tさんにとって、どの方法が自分の本の表紙に適しているか、全くわかりません。とりあえず、書店に並んでいるたくさんの書籍の表紙を見て、気に入ったものを印刷会社に伝えて、相談するしかありません。紙の質感がそのまま得られる色上質紙を使用する場合、光沢加工をおこなう必要はなさそうなので、もう少し検討してみることにしました。
参考資料:
製本に関して詳しくお知りになりたい方は こちらを ご覧ください。
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