- 自費出版を考える
- 自費出版にチャレンジする
- 書籍/雑誌のかたちを知る
- 出版印刷の基礎知識を学ぶ
- 印刷を発注、出来上がりを待つ
- 実際の打ち合わせ
(1)仕様の決定
(2)費用見積り - 著者が取り組むこと
(1)原稿の提出
(2)納期の約束
(3)校正/校了 - 本の完成
(1)納品受領
(2)代金支払い
(3) 進呈・配布
- 実際の打ち合わせ
- 「電子出版」の動向を聞く
パソコンに入力してきた原稿がまとまり、そのデータを印刷会社に渡すときがやってきました。細かい打ち合わせをおこなうため、再び印刷会社を訪れて、担当してくれることになった営業マンNくんと改めて会いました。何から自分の希望を伝えたらいいのか、全く分からなかったので、“大船”に乗った気持で相談させてもらうことにしたのです。
Tさんからみれば相談、Nくんにすれば営業に当たる打ち合わせをおこなったのでが、何も取り決めをしないで作業をスタートさせると、次の段階ですぐ頓挫してしまいそうです。この打ち合わせは印刷物を製作していくうえで非常に重要なことと考えられますので、それだけにTさんも真剣に取り組みました。
Tさんは自分がつくる本に、若い人向けにやさしく書いた解説書としての性格をもたせたかったので、費用面を考慮しながら、2色刷り200ページ くらいの並製本を選びました。サイズはA5判です。本文の文字は横組にして、現代風に少し大きめの明朝体を採用、行間も心持ち広めに組んでもらうようお願いしました。合わせて、表紙のデザインも原稿内容に沿ったものを、2通りほど提案してもらうことにしました。そして、冊数については、あまり数多くつくっても在庫になるだけと思い、ひとまず500部とし、増刷に便利なデジタル印刷でお願いしたのです。
「ページアップした状態のデータを残しておきますので、将来、もし足りなくなったら、1冊でも何冊でも製作することができます。増し刷りが必要になったときに、いつでも言って来てください」とNくんから親切に言われ、発注の決断がつきました。
提出するデータについては「パソコン上で独断的な編集処理を加えていないシンプルなテキストデータをください」とNくんから指摘されました。「DTP作業で印刷用に再加工するとき、いちいち指定を外さなければならないので大変です。難しい表組みが含まれていたら、当社でおこなってあげますよ」との話でした。
写真については、デジタルカメラで撮った画像データをDTPに取り込むというかたちが一般的になっています。「印刷会社の方で、明るさや色合いの調整、トリミングなどをおこないますので、デジカメで撮ったそのままの画像データをください。ご希望をおっしゃっていただければ、できるだけ沿うようにいたします。印画紙になっている写真原稿でしたら、専用のスキャナでデータ化することも可能ですよ」とNくん。
費用の見積もりは、原則として文字組版やレイアウトなどに当たるプリプレス、刷版製版、印刷、製本・加工といった工程別のコストが積算されて出されます。このほか、用紙代、製品の梱包費、発送費、営業費、そして印刷会社の利益などが加算されます。プリプレスは作業の難易度によってコストのかかり具合が違ってきますが、部数の多少に関係なく一定の費用がかかります。これに対して印刷、製本、用紙の場合は、部数に応じて比例的にコストが変動します。
Nくんは言います。「作業の内容が複雑になったり、製作部数を増やしたりすれば、その分、費用がかかって、料金に反映させなければなりません。家づくりと同じです。最初は、ごく一般的な仕様にするところから見積りをスタートさせてみましょう。プリプレスの部分が固定費となっていますので、部数を倍にしたら費用も倍になるというわけではありませんが、この辺は、おつくりになる目標とご予算に応じてお決めいただくことになります。ご希望があったら何なりとおっしゃってください」。 「本」の印刷について、印刷会社と細かく打ち合わせたあとは、いよいよ発注です。これからどんな事柄が待っているか、心構えをしておく必要があると思ったTさんは、この点に関してもNくんから事前情報を得ておきました。
編集者やデザイナーなどプロの人は、文章や添付写真、イラスト類のデータを渡すと同時に、ページの体裁を指示するレイアウト用紙を印刷会社に渡すのが普通です。印刷会社では社内のDTPを使って、印刷に適するようページアップしていますが、アマチュアの個人が依頼する自費出版の場合は、そう容易ではありません。実際のページアップは印刷会社がやってくれるわけですから、大体の希望を話すことでよいでしょう。
本の体裁、文字の書体や大きさ、行間の取り方、色の種類と使用箇所など、基本的なことは、このとき指示します。口頭でひと通り話した希望内容をNくんが逐一書き入れてくれた「仕様書」を見せてもらい、双方の意思疎通は完璧なものとなりました。気に入った装丁の本をもっていたので、それを見本として渡たすこともできました。Tさんもまずは一安心です。
Nくんによると「校正の戻しに時間がかかったり、直前の原稿差し替え、何回にもわたる修正があったりすることが多く、そうなると納期を守るのも難しくなってしまいます」と言われましたので、Tさんとしても、ここは姿勢を正して聞いておかなければと思ったものです。
「人によっては、4回も5回も校正紙を出してくるケースがありますが、費用も時間も無駄になりますので、印刷会社として大変です。最初に決めた仕様をこの段階で変更するとなると、新たな費用が発生してしまいますので、ご注意ください。なるべく初校でじっくりとチェックするようお願いします。誤字や脱字、用語の確認はもちろん、本文、見出し類、写真を含めた組体裁を総合的に見ていただかなければいけませんが、ここであまり時間をかけると、納期も遅れてしまいますよ」。
Tさんの場合は、幸いに自分なりに完全原稿を提出したことがここで生きてきます。再校を終えた段階で責了(責任校了)とすることができました。刷版作成に入る前に最終確認をする念校をおこなわなくて済むよう、印刷会社に全てを任せることにしました。
フィルム製版時代は実際に印刷された校正紙でしたが、今ではDTPから出力されるプリントアウト紙に変わっていることは、Tさんも事前に理解していたことでした。この方がデータ修正代や再度の製版代もかからないとか。印刷会社はDTPで若干の修正処理をしたあと、すぐに刷版を作成する工程へ下版することができます。
「校正用のページアップデータをPDFファイルに変換して、ご自宅のパソコンまでメールでお送りしてもいいですよ。画面のなかでチェックしていただいていいですし、プリンタでいったん出力してから読んでいただいても構いません。その方が少しでも時間短縮につながると思います」。 再校を終えて責了紙をNくんに渡してから10日ほどが経ちました。ついに完成本が届けられる日が来ました。待ちに待った記念すべきときです。
届けられた本に喜んでいるTさんにおこなってもらいことは、印刷や製本に不都合な箇所がないか検品することです。「必ずしも全品を調べていただく必要はありません。2、3冊で構いませんから、実際に手に取ってページをめくってみてください。もし欠陥が見つかったら、すぐに言ってきてほしいのです。適切に対処しますから」と、Tさんから言われていたのを思い出しました。幸いにも検品の結果、満足いく本が出来上がったことを確認できました。これも真摯に取り組んでくれた印刷会社のおかげだ、と思ったTさんでした。
(1)仕様の決定
最初に発注者であるTさんが、どんな書物をつくりたいのかについての、自分なりの希望をしっかり固めておかなければなりません。どんな人に読んでもらいたいのか、いわば、企画上のコンセプトが求められます。これによって、本の体裁と装丁、規格サイズ、文字の書体や大きさ、印刷用紙の種類、各ページの組体裁、表紙のデザイン、印刷部数などが自ずと決められるからです。印刷会社がまず確認しておきたいのは、このような基本構成です。印刷の受発注に際しては、仕様をどうするかについての密接な意思疎通が欠かせません。Tさんは自分がつくる本に、若い人向けにやさしく書いた解説書としての性格をもたせたかったので、費用面を考慮しながら、2色刷り200ページ くらいの並製本を選びました。サイズはA5判です。本文の文字は横組にして、現代風に少し大きめの明朝体を採用、行間も心持ち広めに組んでもらうようお願いしました。合わせて、表紙のデザインも原稿内容に沿ったものを、2通りほど提案してもらうことにしました。そして、冊数については、あまり数多くつくっても在庫になるだけと思い、ひとまず500部とし、増刷に便利なデジタル印刷でお願いしたのです。
「ページアップした状態のデータを残しておきますので、将来、もし足りなくなったら、1冊でも何冊でも製作することができます。増し刷りが必要になったときに、いつでも言って来てください」とNくんから親切に言われ、発注の決断がつきました。
提出するデータについては「パソコン上で独断的な編集処理を加えていないシンプルなテキストデータをください」とNくんから指摘されました。「DTP作業で印刷用に再加工するとき、いちいち指定を外さなければならないので大変です。難しい表組みが含まれていたら、当社でおこなってあげますよ」との話でした。
写真については、デジタルカメラで撮った画像データをDTPに取り込むというかたちが一般的になっています。「印刷会社の方で、明るさや色合いの調整、トリミングなどをおこないますので、デジカメで撮ったそのままの画像データをください。ご希望をおっしゃっていただければ、できるだけ沿うようにいたします。印画紙になっている写真原稿でしたら、専用のスキャナでデータ化することも可能ですよ」とNくん。
(2)費用見積り
発注者にとって気がかりなのは、仕上がり状態や品質はもちろん、果たして費用がどのくらいかかるかということです。それだけに、予算と見合うようあらかじめ本の仕様(編集の難易度、印刷の色数、紙の種類、製本の形状とサイズなど)、および製作部数を決めておかなければなりません。印刷会社からは仕事に着手する前に、発注者から相談された内容に従って概算の見積り費用が示されますので、これを基準にして、さらにどういう仕様にしたらいいか、何回か煮詰めていく必要があります。費用の見積もりは、原則として文字組版やレイアウトなどに当たるプリプレス、刷版製版、印刷、製本・加工といった工程別のコストが積算されて出されます。このほか、用紙代、製品の梱包費、発送費、営業費、そして印刷会社の利益などが加算されます。プリプレスは作業の難易度によってコストのかかり具合が違ってきますが、部数の多少に関係なく一定の費用がかかります。これに対して印刷、製本、用紙の場合は、部数に応じて比例的にコストが変動します。
Nくんは言います。「作業の内容が複雑になったり、製作部数を増やしたりすれば、その分、費用がかかって、料金に反映させなければなりません。家づくりと同じです。最初は、ごく一般的な仕様にするところから見積りをスタートさせてみましょう。プリプレスの部分が固定費となっていますので、部数を倍にしたら費用も倍になるというわけではありませんが、この辺は、おつくりになる目標とご予算に応じてお決めいただくことになります。ご希望があったら何なりとおっしゃってください」。 「本」の印刷について、印刷会社と細かく打ち合わせたあとは、いよいよ発注です。これからどんな事柄が待っているか、心構えをしておく必要があると思ったTさんは、この点に関してもNくんから事前情報を得ておきました。
(1)原稿の提出
パソコンから原稿をダウンロードしたCDをもって印刷会社を訪問、ついに印刷を依頼しました。写真や図表、イラストなどの原稿やデータも、もちろん一緒に入稿です。「すべての原稿を同時にいただければ、DTPの作業が一気にはかどり、その後の工程もスムーズに進みますよ」といわれていましたので、気を配ってそのように実行したわけです。その後は、印刷会社から校正刷りが上がったとの連絡を待てばよいということになります。編集者やデザイナーなどプロの人は、文章や添付写真、イラスト類のデータを渡すと同時に、ページの体裁を指示するレイアウト用紙を印刷会社に渡すのが普通です。印刷会社では社内のDTPを使って、印刷に適するようページアップしていますが、アマチュアの個人が依頼する自費出版の場合は、そう容易ではありません。実際のページアップは印刷会社がやってくれるわけですから、大体の希望を話すことでよいでしょう。
本の体裁、文字の書体や大きさ、行間の取り方、色の種類と使用箇所など、基本的なことは、このとき指示します。口頭でひと通り話した希望内容をNくんが逐一書き入れてくれた「仕様書」を見せてもらい、双方の意思疎通は完璧なものとなりました。気に入った装丁の本をもっていたので、それを見本として渡たすこともできました。Tさんもまずは一安心です。
(2)納期の約束
印刷会社からは通常、入稿から出来上がりまでの日程表が示されます。そこには初校、再考、下版、印刷、製本という段取りに従ってそれぞれ必要な日数が書かれていますので、途中で問題がなければ、約束どおりの期日で納品してもらえることになっています。Nくんによると「校正の戻しに時間がかかったり、直前の原稿差し替え、何回にもわたる修正があったりすることが多く、そうなると納期を守るのも難しくなってしまいます」と言われましたので、Tさんとしても、ここは姿勢を正して聞いておかなければと思ったものです。
(3)校正/校了
プリンタで出力した校正紙を、本のかたちにページ折りして渡してくれたNくんからは「JIS規格となっているこの校正記号によって、規則正しく赤字を入れてください」とお願いされました。校正は1回目の初校、2回目の再校、3回目の三校……と繰り返されるのですが、Nくんからは以下のように聞かされました。「人によっては、4回も5回も校正紙を出してくるケースがありますが、費用も時間も無駄になりますので、印刷会社として大変です。最初に決めた仕様をこの段階で変更するとなると、新たな費用が発生してしまいますので、ご注意ください。なるべく初校でじっくりとチェックするようお願いします。誤字や脱字、用語の確認はもちろん、本文、見出し類、写真を含めた組体裁を総合的に見ていただかなければいけませんが、ここであまり時間をかけると、納期も遅れてしまいますよ」。
Tさんの場合は、幸いに自分なりに完全原稿を提出したことがここで生きてきます。再校を終えた段階で責了(責任校了)とすることができました。刷版作成に入る前に最終確認をする念校をおこなわなくて済むよう、印刷会社に全てを任せることにしました。
フィルム製版時代は実際に印刷された校正紙でしたが、今ではDTPから出力されるプリントアウト紙に変わっていることは、Tさんも事前に理解していたことでした。この方がデータ修正代や再度の製版代もかからないとか。印刷会社はDTPで若干の修正処理をしたあと、すぐに刷版を作成する工程へ下版することができます。
「校正用のページアップデータをPDFファイルに変換して、ご自宅のパソコンまでメールでお送りしてもいいですよ。画面のなかでチェックしていただいていいですし、プリンタでいったん出力してから読んでいただいても構いません。その方が少しでも時間短縮につながると思います」。 再校を終えて責了紙をNくんに渡してから10日ほどが経ちました。ついに完成本が届けられる日が来ました。待ちに待った記念すべきときです。
(1)納品受領
かつては、印刷会社の車で印刷製品を発注者(書籍・雑誌の場合は出版社)または流通会社(取次や大手書店)のところまで運び込むのが“常識”でした。しかし、専門的な運送業者が増えたこと、宅配便のシステムが確立されたこともあって、このような外部の力を上手に借りて手間と時間、コストの削減をはかるようになりました。「自費出版でしたら、部数も少ないのが普通ですから、宅配便でお届けしますよ」と、あらかじめNくんからは伝えられていました。届けられた本に喜んでいるTさんにおこなってもらいことは、印刷や製本に不都合な箇所がないか検品することです。「必ずしも全品を調べていただく必要はありません。2、3冊で構いませんから、実際に手に取ってページをめくってみてください。もし欠陥が見つかったら、すぐに言ってきてほしいのです。適切に対処しますから」と、Tさんから言われていたのを思い出しました。幸いにも検品の結果、満足いく本が出来上がったことを確認できました。これも真摯に取り組んでくれた印刷会社のおかげだ、と思ったTさんでした。
(2)代金支払い
当初、見積りをしてもらった金額にほぼ沿った請求書が送られてきました。請求書には積算の内訳が添付されていました。Tさんは、見積り金額と少し違っている点が気になりましたので、内訳同士を身比べてみたのですが、ページ数が少し増えていることが要因と判り、すぐに納得しました。期日内に振り込むことを再確認しました。(3) 進呈・配布
今回はあくまでTさん自身の意思で製作した自費出版本です。特定分野の専門書ということもあって、地元の書店だからといって、そう簡単に店頭に並べてもらうわけにはいきません。まずは何冊かを、現役当時の先輩や友人、身内の人たちに進呈、さらに所属していた会社や取引先、業界団体に配布しました。残りの冊数は自宅に保管しておき、問い合わせがあったときに備えることにしたのです。 取次から書店に卸す流通ルートを紹介することを前提にしたり、地域の書店に置くよう提案してくれたりする専門の自費出版サービス会社もあると聞いていたのですが、Tさんはあくまで自分の力でカバーするつもりです。Webサイトに展開されている“電子書店”に登録して、注文してくれた人あてに自宅から直接発送することも考えています。実は心の内で密かに「これを機会に、業界の団体や会社から研修や講演の依頼が来ないかな。そうなったら、この本をテキストにできるのに」と思ったりしています。これも自費出版する人の楽しみの一つといわれていますので、周囲からも温かい目で見てくれるはずです。<< 出版印刷の基礎知識を学ぶ : prev next: 「電子出版」の動向を聞く >>
(C) Copyright The Japan Federation of Printing Industries