1. 電子出版
「じゃ、このへんで紙を離れてみようか。 もちろんA君も 『電子出版』 のことは知っているだろう?」「はい。 ただ、この言葉はいま、コンピュータによる文書編集、印刷、出版など出版媒体全体の電子化を捉えての表現として使われることが多く、あんまり意味が広範囲なもので、説明しろといわれるとちょっと困りますが」
事実この 「電子出版」 という言葉は、現在次のようなさまざまな意味で用いられています。
- 情報を加工する手段の電子化を指す場合。
- 電子媒体 (通信媒体を含む) を利用した情報出版 (情報サービス)を指す場合。
- 上記の1、2を総合して指す場合。
「いままでは情報を提供する媒体として紙を用い、ハードコピーつまり印刷物の形で出版することがほとんどだった。 『電子出版』 の場合それをソフトコピー、つまり電子媒体によって行うだけで、本質的には出版であることに変わりはない。 ただし、印刷物による提供と電子媒体による提供では、同じ情報でも機能や表現が必然的に違ってくるんだ。
提供情報の電子化は、その特徴として即時性、パーソナルニーズ対応、検索性などに優れている。 だから、そのような特性が大きなメリットとなる分野から利用が広がりつつあるわけだ。 たとえば、検索性が重視される辞書や辞典類がその典型だね。
現在では、タブレット端末やスマートフォン、電子書籍専用端末などで電子化された本や雑誌が読むことができる。紙の本とは違い、画面をタッチすると動く機能や、動画の再生など多彩な表現に印刷会社のデジタル技術が生かされている。電子書籍の販売サイトといった流通の仕組みにも印刷会社が貢献している面が多い。もっとも、この電子出版の分野では印刷企業だけが出版のための加工を行うとは限っていない。 むしろ従来は出版と縁のなかったソフトハウスやコンピュータメーカー、家電メーカー、データーベース業などの異業種参入が多いから、君たち印刷業界の人たちもうかうかしていられないんじゃないか」
2. 定義の難しいマルチメディア
「電子出版とならんで最近よく耳にする言葉に 『マルチメディア』 という用語がありますね。 これも電子出版と同じで、だいたいの意味はわかるつもりなんですが……」「そうだね。 これも頻繁に耳にはするけど、本当に理解している人は少ないかもしれない。 とりあえず、A君の理解している範囲で話してみないか」
そう問い返されたA君は、自分の知っている範囲で次のようなことを話してみました。
まず、これはコンピュータメーカーや家電メーカーがテレビやビデオに続く大きな商品になると期待している、文字・映像・音声などをコンピュータで複合的かつ一元的に扱うものであること。 これをシステム化したものを 「マルチメディアシステム」 と呼び、このシステムを使えば、利用者は文字・映像・音声などさまざまな情報を呼び出して、自由に加工できるという特徴がある……。
「だいたいのところは、そのとおりだ。 つまり 『マルチメディア』 とは、文字・映像・音声のどれにも対応可能で、しかも双方向性の対話型機能をもつメディアのことをいうわけだ。
世界的にもマルチメディアは、これから巨大な市場を獲得すると見られていて、実際にマルチメディアとしてどのようなハード、ソフトが伸びるかは、まだはっきりしてはいないが、情報を加工することが主業務の印刷産業としてはきちんとチェックしておいたほうがいいだろうね」
3. ハイビジョンの普及
ハイビジョンは、テレビ放送以外にも産業用、公共用などでの利用が可能だからね。 使い方としては美術館や博物館でのハイビジョン静止画活用、教育や医療での利用、ハイビジョン電子カタログ、ハイビジョン電子出版、ハイビジョン映像からの印刷物などがあって、すでに利用が始まっているものもある。たとえば美術館や博物館が所蔵している作品を、印刷用の高精度な画像情報処理技術を活用してデジタル処理でハイビジョン静止画にし、収録してデータベース化しておけば、会場に展示しきれないものや、各地での公開もハイビジョンで高精彩な画像を見ることができるしね。これらはデジタルアーカイブといって、世界各国の様々な分野で取り組みが進められている。
ハイビジョン映像からの出版印刷物も数年前から出ているし、商品をハイビジョン静止画として光ディスクに記録し、欲しいものを検索できるようにした販売促進用のハイビジョン電子カタログも利用がはじまっている。今後、もっといろいろな分野での利用も図られることになるだろうね」
4. 小さなニーズに対応する印刷システム
「そうそう、また紙の話に戻ってしまうが、思い出したから忘れないうちに話しておこう」とKさんが触れたのは 「オンデマンドプリント」 のことでした。
あるシステムになんらかの要求 (demand) をしたとき、「ただちに」 それに応じて何らかの回答をするようなシステムをオン・デマンド・システムといい、これは日本語で 「要求即応システム」 などとも呼ばれています。
ただし、「ただちに」 ということばは定量的な言い方ではありません。 反応・回答が返ってくるまでの時間がどのくらいであればオンデマンド・システムであり、その時間がある値以上であればオンデマンド・システムではない、というような明瞭な境界があるわけではないのです。
「あの少部数対応の印刷システムのことですね?」
「そのとおり。 ここのところ印刷技術が成熟して、大量生産には非常にメリットが出るようになった一方、個人出版などの少量生産には効率的に対応できなくなっているだろう。 反面、何かを表現したいという人たちのパーソナルニーズや、企業内出版などの小さなニーズが増加している。
そこで生まれたのが、オンデマンドプリンティング、デマンド出版といわれる1冊でも注文があれば対応出来る印刷システムなんだ。 このシステムを使えば、データベースから検索したある部分を10部程度の少部数印刷にするようなことにも対応できる」
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