これは、日本の儲かっている製造業を利益率という観点で上から並べたものです。これは円が80円ぐらいのときです。こんなに儲かっている会社がいっぱいあります。この共通点は、「ポット出ではできない仕事」ばかりです。その会社が積み重ねてきた技術、蓄積技術、お客さんとの関係性で、成り立ってきたゲームなのです。
だから、ジョブズと対峙した時の当時のiPodのゲームや、iPhoneのゲームというのは、「アイドル歌手との戦い」なんです。昨日今日に出た若いやつが勝つんです。そこに50過ぎのおじさんとかおばさんが出てても勝ち目はないです。そういうゲームではない。ですが、「キョンキョン」に仕事がなくなるかといったら、なくならないのです。「キョンキョン」には、ご存じのように、アイドルのお母さんという仕事が残っている。
だから、ビジネスの世界というのは幸いなるかな、「何でもかんでもゼロリセットされてしまう事業」とは限らないです。野球は、残念ながら毎年0勝0敗、リセットですね。来年、今度のシーズンはどこが優勝するかわかりません。日本のプロ野球もアメリカのプロ野球もそうです。けれども野球の過去累積の勝敗数を調べるとおもしろいのですが、累積勝率は、セリーグのトップは当然ジャイアンツです。2位がどこだかわかりますか。手を挙げてもらいましょう。
2位がヤクルトだと思う人――これはあまりいないですよね(笑)。 横浜だと思う人もいないですよね。広島カープもいないですよね。阪神か中日ですね。
阪神だと思う方。
中日だと思う方。
答えは中日でございます。阪神ファンはごめんなさい。次が阪神です。
ところが、この間は結構空いていまして、ジャイアンツが5割7分ぐらいの勝率で、中日が5割3分ぐらいです。今年仮にジャイアンツが0勝140敗で、中日が140勝0敗でも、実はこれはひっくり返りません。
ビジネスの世界には、実は通算勝率で今年の順位が決まってしまうようなビジネスもあるのです。さっきソニーの話をしましたが、今から30年前、40年前の時点で、アメリカ人の一般消費者にとってソニーに相当するような、最もイノベーティブでアメリカ人の生活を変えてきた電気メーカーがどこだったか想像つきますか。自動車の中ではGMよりもフォードです。魂に響く会社、これはやはりフォードなのです。フォード生産システムは小学生でもみんな知っています。
多くの電化製品を発明したのは誰ですか――エジソンです。エジソンが作った電機メーカーはどこですか。GEです。GEという会社は、1970年代頃までのアメリカ人にとっては日本人にとってのちょっと前ののソニーのようなイメージの会社だったのです。アメリカを変えた会社なのです。あるいは、アメリカ人の生活を変えた会社なのです。モスト・ロマンティッカリー・イノベーティブな会社なのです。ところが、そのGMも年をとります。そういったことがだんだんできなくなって、むしろ当時勃興してきた日本メーカーにパワーゲームで負け始めます。
そこでジャック・ウェルチが登場します。ジャック・ウェルチはもうめちゃめちゃな選択と集中を主張します。彼が何を残したか、あるいは何を止めたか。よくいわれるのが、「1位、2位以外は止めてしまう」という話がありましたよね。もっと正確にいうと、1位、2位たることが意味のある事業だけを残した。かつ、自分たちが1位である。要するに、今年1位であるというのは、多分来年も1位だろうということは、さっきの議論ですね。ことし1位であるという蓄積が来年ものを言う産業です。残したのが、航空機エンジン、発電関係の重電、それから医療機器。止めたのがコンピューター、半導体、家電、それも茶物、オーディオビジュアル系で、白物は残しています。要は、「蓄積がものを言うもの」だけ残しています。ベテランの味が生きるものだけ残しています。
航空機エンジンや発電タービン、どんなに発明力がある人間がゼロからやっても、今と同じようなレベルのものは作れません。猛烈な経験技術の蓄積です。あの中で何百枚という羽が回っています。鋼鉄の羽ですが、タービンが回っているところの温度は鉄が溶ける温度です。回しながら、回すスピードで空冷させながら、溶けないように回します。これは「科学ではない」のです。ほとんど「経験技術」です。印刷もそういうところがありますが、非常に経験技術の積み重ねなので、同じことは絶対できないのです。あの発電効率は不可能なのです。これは航空機エンジンも同じことです。部品点数が何万点ですから。
それで、うまくいかないのも実はよくわからないのです。今、787のバッテリーの問題がありますでしょう。あれは何で起きるのか厳密にはわからないのです。今だにわかっていません。ああいうところのエンジニアリングというのは、とりあえずこれかもしれないと、いくつかまとめて手を打つのです。手を打ってみて起きなかったら、それでオーケーなのです。それはどういうメカニズムで起きないかということはほとんど解明されないまま前へ進んでいってしまう、そういう世界です。この世界というのは「能年玲奈」よりも、やはり「キョンキョン」のほうが強いです。