新たな事業領域の構築・5題
■日本グラフィックコミュニケーションズ工業組合連合会(2008年5月)
プリプレス業界
デジタル・コンテンツ制作の専門家として
■『「デジタル・コンテンツ制作集団をめざして」
-業界の新たな枠組みとビジネスモデルの提唱-』より
(発行:日本グラフィックコミュニケーションズ工業組合連合会 発刊:平成20年5月)
1.最終顧客に成果物を提供する立場
印刷の前工程であった製版業界は、凸版印刷に使う金属版、平版(オフセット)印刷に必要なフィルムをつくり、また、文字組版のための写真植字をおこなってきました。その後、製版工程におけるデジタル化が急速に進展し、今ではパソコンを中心とするDTP(デスクトップパブリッシングシステム)で、画像と文字を一緒に統合処理しています。かつての製版はプリプレスと呼ばれるようになったのです。しかし、プリプレスの作業はその名のとおり、あくまで印刷物をつくるためのページアップデータを生成し、それを刷版に出力して次の印刷工程に渡すというものです。これでは、どうしても印刷が本工程となり、プリプレスは前工程の立場から逃れることはできませんでした。
そこで、製版の業界団体を前身にもつ日本グラフィックコミュニケーションズ工業組合連合会では、情報化がとうとうと進む経営環境に応えるべく、現状からさらに一歩踏み込んだ「デジタル・コンテンツ制作」というコンセプトを打ち出しました。印刷工程だけに用いる中間財の作成から、最終顧客に成果物を提供する仕事へと転換をはかり、新しい業界像を確立しようと取り組んでいます。
デジタル・コンテンツ制作を事業の中心に据えることによって、プリプレス会社は印刷会社の下請け的な存在から脱け出し、当の印刷会社はもとより企画制作会社、広告代理店、IT企業など、さまざまな顧客に直接提案できるポジションに立つことができるとしています。
2.コンテンツ・サービス業からの戦略的事業展開
デジタルでつくられたコンテンツは、データベースを運用して一括管理し、さらにネットワークを利用することで、どこのクライアントにも自在に渡せるようになります。目的に応じて2次、3次の再加工も可能です。同じコンテンツを使って印刷物はもちろん、電子メディア、映像メディア、広告メディアなど、顧客が求める多様な媒体(メディアミックス)に出力できます。これまで無意識にDTPが担ってきた文字処理、画像処理、情報処理の仕事を、デジタル・コンテンツ制作の本工程に組み込んで、印刷のためのDTP工程とは切り離そうという考え方です。このようなコンテンツ資産を上手に制作・管理することを、プリプレス業の将来的な仕事にしていこうというわけです。DTP工程、印刷工程はすべてコンテンツ制作に続く後工程と位置づけられます。これまで長年にわたって培ってきたカラーマネジメントや文字組版という強みを活かし、そこにコンテンツ制作のノウハウを重ね合わせることで、新しい業界基盤をつくろうとしています。
同連合会が策定した業界ビジョンによると、処理したデータ、加工したコンテンツを提供する業態を「情報サービス業」と定義し、具体的な仕事として①文字関係ではデータ入力、原稿作成、②画像処理に関してはグラフィックデザイン、CG、デジタルアーカイブ、③情報処理関連ではデータベース構築、電子ファイル保管——などを、データのデザインングという考え方でおこなっていくと謳っています。その業態をさらに進化させるかたちで「コンテンツ・サービス業」をめざします。
そして、この新しい業態をスタート台と位置づけるとともに、例えば次のような戦略的ビジネスモデルを提唱しています。
- プロモーション型
- プリントメディア型
- マルチメディア型
- 電子メディア型
このような進化・複合化をめざす一方で、現行のプリプレス業、製版業を技術追求する深化・専門特化をはかるビジネスモデルも認めています。プリプレス業の場合は当然、デザイン制作や編集制作といった企画提案の要素を取り込んでいかなければなりませんし、製版業の場合は、色分解やカラーマッチングに万全を期し、しっかりと版づくりを支えていく必要があるのはいうまでもありません。
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