新たな事業領域の構築・5題
情報価値創造産業
「Printing Frontier 21」が基本路線を示す
■『「Printing Frontier 21」-情報・文化・生活価値の創造をめざして-』より
(発行:社団法人日本印刷産業連合会 発刊:平成13年4月)
1.顧客起点で事業の領域を再定義
21世紀を迎えた時点で、日本印刷産業連合会は印刷産業の将来像を展望するビジョン「Printing Frontier 21」を発表し、経営環境の変化に対応できる戦略目標を設定するとともに、活性化可能な産業としてのあるべき姿と方向性を示唆しました。そのなかで、印刷産業が検討を急がなければならない経営課題として掲げたのが、①急速に進むIT革命への対応、②「知的付加価値」を高めることによる競争優位性の確保、③市場密着とニーズ対応の徹底、④環境問題への対応——の4点でした。とくに、正当な利益を得て競争的優位に立つには、ソフト・サービス指向と企画提案能力で、顧客企業に貢献し得る発想をもつ必要があると改めて強調しています。問題解決能力を発揮して、顧客ニーズにしっかりと対応できる印刷会社にならなければいけないと訴えています。地域に密着するさまざまな信頼関係を大きな“武器”としながら、印刷業自らの強みを活かせる市場を絞り込み、その地域、テーマ、品目に関するニーズを把握して、付加価値の高い印刷製品とサービスを提供していける独自の営業体制を築かなければならない、と問題提起したのです。
そして、印刷産業を取り巻いてきた経営環境の変化に対応するには、川上・川下工程への展開はもちろん、紙以外のデジタル媒体への情報流通のチャンネル展開など、事業分野を拡大する必要があるとして、①顧客起点の視点での事業・業務の見直し、②核業務における高付加価値化・低コスト化、③IT関連を中心とした新規領域への展開——を提唱しています。
2. 情報・文化・生活価値を実現する戦略目標
製造業と情報サービス業という二面性を生かしながら、変革していくべき新たな印刷産業の姿を「情報価値創造産業」と再定義しました。変革をめざす戦略目標として設定したのは、次の3点です。- 顧客重視=生産第一主義の発想から脱却して、顧客中心のビジネスモデルに切り替えていく。
- 利益重視=他社との差別化をはかりながら、利益を確保する方向に戦略的に転換していく。
- デジタル・ネットワーク重視=既存の印刷ビジネスを変革するために、ITを有効なツールとして活用していく。
- さらに、これら3つの戦略目標を達成するための戦略シナリオとして、以下の3項目を策定しています。それぞれ対応方向、具体的な方策、取り組むべき課題を示しているのですが、ここでは、マーケティング戦略に関連する主な内容と一緒にご紹介します。
(1) IT革命の波に乗るために
① 印刷メディアと電子メディアを融合させて、情報をさまざまなメディアで表現する「ワンソース・マルチユース」を支援する。② ネットワーク社会におけるパーソナルな情報ニーズに応える。
③ 企業と消費者との間の電子商取引(EC)にも積極的に参画する。
(2) 高い付加価値を生み出すために
① 顧客満足を高めるために、基本的ニーズを着実に実現できる対応力を養う。② 顧客の側に立って顧客の思いを理解し、印刷物・サービスに翻訳する能力を高める。
③ 専門的知識に基づいて顧客ニーズを理解し、アドバイザーとなって顧客からのロイヤルティーを獲得する(CRMの活用)。
④ ITツールを駆使して、ワン・トゥ・ワンマーケティングを展開する。
⑤ 自社の事業領域を見極め、専門特化、地域密着などの差別化戦略によって、顧客に提供するサービスを明確にする。
(3)市場と顧客に支持される企業になるために
① 顧客のビジネスソリューションにつながる革新的なアイデアを提供することによって、顧客適応型、顧客創造型のビジネスモデルを確立する。 このように、印刷産業がめざそうとした方向は、マーケティング主導の価値提案型ビジネスへの発想転換、顧客のビジネスに精通したコンサルティング力の向上とコラボレーション(ビジネスパートナー)の確立に象徴されているのですが、「Printing Frontier 21」が提示した将来展望は、その後の印刷産業が歩むべき道を定め、これからも、印刷会社が事業基盤を構築するうえでの基本的な指針となっていきます。next: 「SMATRIX」で次世代型印刷産業をめざす >>
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