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  「平成26年新春講演会」講演録 (平成26年1月23日)
今という時代と経営者の使命
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       講師 経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO 冨山 和彦 氏

では、そこで何が大事かということになります。「企業の競争力」、あるいは「経営力」、これを大きく二つの要素で説明すると、基本的には「意思決定をする力」、要は、「正しい決断を正しいタイミングでする力」と、決めたことをちゃんと実施する「実行力」、これは「現場力」といってもいいかもしれません。この掛け算です。これは個人生活もそうで、一番わかり易いのが結婚です。誰といつ結婚するかというのは、「意思決定する力」ですが、それだけで結婚生活がうまくいったら苦労はないわけでありまして、それ以上に「実行力」も結構大変です。うまくやれなかった場合、どちらのせいかと毎回悩ましいところですが、この二つが両立して初めて、私生活の上では「よき人生」になるわけです。  
どちらも大事だとはいいましたが、比較的環境が安定的であれば、多少意思決定がいまいちでも、これを実行段階で一生懸命挽回するということは不可能ではありません。ところが、さっきいった大嵐の中に船を漕ぎ出していくと、バアッと波が来て、取舵、面舵を間違えると、一遍に船は転覆するのです。転覆してしまうとお終いで、水夫さんがどう頑張っても「現場力」は復活できないわけで、「意思決定をする力」というのは、極めてクリティカルで決定的に重要になってきます。  
一般論でいってしまいますが、日本の企業の多くに割とありがちなのは、「意思決定する力」が脆弱な場合が少なくないです。これは難しいのですが、実行力、現場力とややトレードオフになる部分もあって、実行力、現場力が旺盛な組織は、大体意思決定に関してはちゃんと丁寧にすり合わせて、現場レベルでいろいろな問題点を調整して、抜き出して、あく抜きをしながら意思決定をしていくのです。ですから、トップで意思決定をする段階では、多くの場合は実行可能性がちゃんと担保されている場合が多いです。これがある意味では、日本の精緻なものづくりや、日本の精緻なサービスを可能にしてきた背景です。  
ところが、こういう丁寧な仕事の進め方、丁寧な意思決定の仕方では絶対決められない意思決定があります。これは私が再生機構で経験した名門繊維会社の再建などはその典型的な例です。  
業績が悪かったものを一生懸命黒字に見せるわけです。なぜ業績が悪くなったかというと、繊維部門の赤字です。単なる紡績会社ではなくて、日本一の民間企業だったのです。紡績事業をコア事業として日本一になった民間企業だったのですが、その紡績がだんだん斜陽になってきて、競争にも負けて大赤字になってまいります。繊維が成熟した時に多角化を進めて成功した会社です。ですから、嘗ては繊維の会社として素晴しい会社だった。その後は、多角化の成功事例としてよく出てきた会社です。この多角化の立役者が伊藤淳二さんという経営者で、この方は、御巣鷹山で日航機が墜落した後の日航の会長になる方です。最近映画になった『沈まぬ太陽』、山崎 豊子さんの小説の中でもモデルとして登場する方で、たしか映画では石坂 浩二さんが伊藤 淳二さんの役をやっていましたが、そういう中興の祖とした会社です。  
この名門繊維会社は多角化に成功しておりますが、繊維というのは素材産業で成熟産業ですから1位、2位、3位ぐらいまでしか黒字にならないのです。いくら大きくても、もっと大きいものがいたらそこに負けてしまうのです。ですから、こうなってしまうと中々チャンスがないということで、本来は撤退すべき事業です。ところが、これを撤退しなかった。ある種「単純な経営判断を誤ったのか」ということになるわけです。当時の経営を担っていた人々は、自分個人としては、もう繊維はもたないと思っていた、本当は撤退すべき時期だと思っていたのだが、社内の空気として下手にそんなことをいい出したら多分自分は失脚していただろうと。当時まだ社員の半分以上が繊維で働いていて、そういった状態で、それはいい出せるような空気はなかったのですと、ほぼ全員がいいます。全員が内心そう思っているのだったら、みんな腹を割って話せば決断できたはずです。これができないわけであります。そうしたまま、だんだん経営、業績が悪くなってバブルが弾ける。ふと気がつくと、いよいよ厳しくなった。  
すごく難しい問題をはらんでおります。「すり合わせ」という言葉が製造業を中心にあります。「すり合わせ」というのは、あれもこれもの発想です。AとB、違うものの両方をうまく生かせるように組み合わせるから「すり合わせ」なのです。あれもこれもというのは、非常に日本的な世界観、価値観になります。「あれかこれか」というのは、「ゼロか1か」、「神か悪魔か」という二分法ですから、どちらかというと西洋的な感覚ですが、経営というのはどっちも必要だということです。強い現場、強い生産、そういう緻密なものづくりをしていく、あるいは、正におもてなしではないですが、ちゃんとした実行をしていくという上では、「すり合わせ的な能力」というのはすごく大事です。その一方で時折り組織というのは、あれかこれかのやや非情な決断を迫られるわけです。非情な決断をちゃんとやらないと共同体全体が滅びてしまうということが起きてくるということになります。両方の要素が求められるわけで、そうするとこれはまさにリーダーの仕事であります。  
あれかこれかが嫌で、会社が10年続けて毎年5%カットしたというケースもありました。これはリストラとしては最悪のリストラで、毎年少しずつ給料が下がっているわけです。士気も下がっているわけです。小出しのリストラを繰り返して、一番やってはいけないモデルです。構造問題があるのですが、経営者がそこに思いきりメスを入れられないのです。そのオーナーさんは、初代ではなくて、3代目、4代目でした。3代目、4代目になると何が変わるかというと、大体みんな育ちがよくなります。初代が頑張ってリヤカーを引くところから始まって成功します。初代は修羅場も潜っているので、結構えぐい決断ができるのですが、だんだんお金持ちになり、2代目、3代目はちゃんとした大学を出てきて、MBAなどを取ってしまったりして、高学歴で、育ちもよくて、品もよくなります。初代よりもはるかにものはよく知っているし、勉強もしています。ところが、そういうタイプの人に限って、育ちがいいので、シビアなものには慣れていないのです。
さらに 「構造問題への対応」です。地方のバス会社などでは、人口が減ってくると、やはり構造改革をやらざるを得ないです。バス本体はまだもっても、みんな幅広くいろいろなことをやっていますから、バス事業の延長線で自動車教習所をやっていました。地方は若い人がいないので自動車教習所には来てくれない。そうするとそのエリアでは成り立たなくなってしまうのです。よその県と合併するか、止めるかになってしまうということです。これを止めようと思うと親族経営のために、家族会議、親族会議と大変なことになってしまいます。今度の跡継ぎは何だ、となるのです。  
また 調達を見直そうとの取組みをはじめると、大口取引先を変えてしまうと姻戚関係にある油の卸が潰れてしまうなど、ドライに見直そうかという話をしようとすると、戦国時代の話ではないですが、商売関係がどうしても姻戚関係になってしまう。今の黒田官兵衛的な展開になってくるのです(笑)。これは他人事だったら笑えますが、もし自分が当事者だったらそう簡単にいかないです。  
ですから、構造改革的なやり方をするとそういうことが起きると思い浮かんだ瞬間に、頭のいい人が多いですから、頭ではこうするべきだとわかっています。ところが、これはちょっとな、と思ってしまう。法事をやったら自分が喪主をやらなければいけないわけですし、正月にも集まるわけですから、そういうことを考えると、ここはみんなで5%給料カットとなってしまうのです。事は同じで、構造問題なのでまた2〜3年で赤字になってしまって、また5%カットをやる。そういうケースがいっぱいありました。  
これが難しいのは、単に「勉強していれば良いのか」、「頭がよければ良いのか」、物事が「わかっている」、「わかっていない」という問題ではないのです。リーダーシップというか、トップが直面している問題というのは「経済的合理性と人間社会のいろいろな情理、しがらみとの間で大変な板挟みになっている中でどうしますか」というようなことになってまいります。
 「イノベーション」というと聞こえはいいですが、「イノベーション」は必ず悲劇を起こします。古くは、ヘンリー・フォードがフォード生産方式というものを発明します。これは流れ作業です。流れ作業で自動車を作っていってしまう。それまで自動車というのは一品生産でした。今でも一品生産の車はあります。フェラーリなんかは一品生産です。非常に精密な工業生産品ですから、ばか高くなります。流れ作業でやっているから、軽自動車は百万円で作れるのです。数百万円で車を買えるわけです。  
こうやって車がいきなり大量生産品になって、一家に1台になってまいります。これは「大イノベーション」です。これがアメリカの豊かな中産階級社会の指針になるわけですが、このおかげで悲惨な目に遭った人たちがいます。アメリカは大きい国だったので、馬車産業というのは非常に大きな産業だったのです。馬車産業は壊滅的に消えてなくなります。馬車産業は結構すそ野の広い産業で、馬車そのものを作る産業もありますし、「御者」さんの仕事もありますし、馬を育てるという仕事もあります。凄く大きな産業でした。これが壊滅的に消滅します。この人たちからしたらヘンリー・フォードはとんでもないヤツです。  
このように「大イノベーション」は必ず何らかの悲劇性を伴います。皆さんが直面している「ITの発達と紙との関係」もよく似ていますが、そういった側面を必ず持ちます。それが「こちらを維持すれば」「こちらが日影に回る」ということが社内で起きることもあります。
ですから経営者なり責任者が難しい問題に直面した時、いろいろな判断や決断が遅れる要因になります。
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