さらに 「構造問題への対応」です。地方のバス会社などでは、人口が減ってくると、やはり構造改革をやらざるを得ないです。バス本体はまだもっても、みんな幅広くいろいろなことをやっていますから、バス事業の延長線で自動車教習所をやっていました。地方は若い人がいないので自動車教習所には来てくれない。そうするとそのエリアでは成り立たなくなってしまうのです。よその県と合併するか、止めるかになってしまうということです。これを止めようと思うと親族経営のために、家族会議、親族会議と大変なことになってしまいます。今度の跡継ぎは何だ、となるのです。
また 調達を見直そうとの取組みをはじめると、大口取引先を変えてしまうと姻戚関係にある油の卸が潰れてしまうなど、ドライに見直そうかという話をしようとすると、戦国時代の話ではないですが、商売関係がどうしても姻戚関係になってしまう。今の黒田官兵衛的な展開になってくるのです(笑)。これは他人事だったら笑えますが、もし自分が当事者だったらそう簡単にいかないです。
ですから、構造改革的なやり方をするとそういうことが起きると思い浮かんだ瞬間に、頭のいい人が多いですから、頭ではこうするべきだとわかっています。ところが、これはちょっとな、と思ってしまう。法事をやったら自分が喪主をやらなければいけないわけですし、正月にも集まるわけですから、そういうことを考えると、ここはみんなで5%給料カットとなってしまうのです。事は同じで、構造問題なのでまた2〜3年で赤字になってしまって、また5%カットをやる。そういうケースがいっぱいありました。
これが難しいのは、単に「勉強していれば良いのか」、「頭がよければ良いのか」、物事が「わかっている」、「わかっていない」という問題ではないのです。リーダーシップというか、トップが直面している問題というのは「経済的合理性と人間社会のいろいろな情理、しがらみとの間で大変な板挟みになっている中でどうしますか」というようなことになってまいります。
「イノベーション」というと聞こえはいいですが、「イノベーション」は必ず悲劇を起こします。古くは、ヘンリー・フォードがフォード生産方式というものを発明します。これは流れ作業です。流れ作業で自動車を作っていってしまう。それまで自動車というのは一品生産でした。今でも一品生産の車はあります。フェラーリなんかは一品生産です。非常に精密な工業生産品ですから、ばか高くなります。流れ作業でやっているから、軽自動車は百万円で作れるのです。数百万円で車を買えるわけです。
こうやって車がいきなり大量生産品になって、一家に1台になってまいります。これは「大イノベーション」です。これがアメリカの豊かな中産階級社会の指針になるわけですが、このおかげで悲惨な目に遭った人たちがいます。アメリカは大きい国だったので、馬車産業というのは非常に大きな産業だったのです。馬車産業は壊滅的に消えてなくなります。馬車産業は結構すそ野の広い産業で、馬車そのものを作る産業もありますし、「御者」さんの仕事もありますし、馬を育てるという仕事もあります。凄く大きな産業でした。これが壊滅的に消滅します。この人たちからしたらヘンリー・フォードはとんでもないヤツです。
このように「大イノベーション」は必ず何らかの悲劇性を伴います。皆さんが直面している「ITの発達と紙との関係」もよく似ていますが、そういった側面を必ず持ちます。それが「こちらを維持すれば」「こちらが日影に回る」ということが社内で起きることもあります。
ですから経営者なり責任者が難しい問題に直面した時、いろいろな判断や決断が遅れる要因になります。