すから、自分の現場、自分のお客さま、自分の管理している世界を知らなければいけないのです。机からはできない。出て歩き廻らなければいけないのです。 総務は、机からはできません。皆さんの会社の中でも机に座って営業しようとしている人が多いかもしれません。その人は、受注、発注はできるかもしれませんが、お客さまを知ることはできません。お客さまの世界を知って初めて改善提案が生まれるのです。会話が生まれるのです。FMは、机からはできないのです。
MBWA(マネージメント バイ ワーキング アラウンド:「現場をみて廻って仕事する」)はこういうふうに教えます。
それなりにちょっとした大きいビルで働いていますか。
あなたの机は何階?(「4階」という答え)
4階の机から入口のドアまでいくルートはいくつありますか。(「それは無限にあります」という答え)
すばらしいです。ふつう「四つ」とか「三つ」とかいう。無限ですか。例えば?
(「遠回りしていくとか近道でいくとか」という答え)
どうせお昼を食べにいくのだったら、きょうは机から立ち上がって窓際を歩いてこっちの階段から降りていく。帰ってくるときはこっちの階段から昇ってきてこっちの窓際を回っていく。
総務の人、ファシリティ・マネージャーは、This is MY building(これは私の建物=私の仕事場)です。絶えず何がどうなっているかを知らなければいけない。だから、こうやって教える。どうせいくなら、MBWA。Walking Around。このルート、あのルート。これはたぶんどの事業にもいえると思います。どうせ営業にいくなら、ここの人に話をかける、こっちもいってくる、これもする。やはりヒントが出てきます。机からは出てきません。
"It's all about money." Moneyというのは、このmoneyをいっています。お金。
皆さん、なぜ会社がありますか。利益をつくるためです。この部屋には社長さんが何人もいると聞いていますが、社長さんは毎晩何を悩んでいますか。従業員の満足度ですか。だから眠れませんか。全然違います。お客さまの満足度ですか。全然違います。
利益です。今月、利益が出るのか、出ないのか。お客さまの満足度は手段です。営業戦略は手段です。商品は手段です。ポイントは利益です。利益がない会社は続かないのです。そのことを必死に心配しているのは社長です。
我々ファシリティ・マネージャーは、せっかく社長がつくったこのお金、それを「利益」といいます。売上から直接経費を引いたものを「利益」といいます。「営業利益」とか「総利益」とかいいます。その次に間接経費が引かれる。
社長さんは、モノを売った、その売るための原価を引いた、利益が出た。その利益を総務のクレイグが、「会社のボイラーを修理させてください。お金ちょうだい」といって、せっかく社長の手の中に入った利益を使っているのです。
私は、利益を使う会社ではいやな男になりがちです。総務というのはそういうことです。会社の利益を使ってしまっているのです。だから、会社は総務が嫌いなのは当たり前です。「なんで俺の金ばかり使うんだ」という。「いつも来るたびに、これに使いたい、あれに使いたいとばかり言っている」。表現が間違っているのです。
私が100万円のコストダウンを図ったとき、私は経費を100万円削ったのではないのです。私は100万円利益をつくったのです。100万円ここに利益を残したのです。私は利益に関係する仕事をしているのです。すべてやっていることがお金に関係するのです。
頭で業務をお金とリンクしないでやっている総務が多すぎるのです。一つひとつがお金です。皆さんの印刷物を注文するのもお金ですが、その使い方もお金です。それに関係する人件費も、会社の中の人も、全部お金です。
本当にいくら掛かっているんですか。それを絶えず頭で計算することが、ファシリティ・マネージャーです。清掃をただきれいにするというのは、だれでもできるのです。でも、このお金の使い方で、どうやって利益にそれがつながるか、つながっていないか、関連性がどこにあるかを考えることがファシリティ・マネージャーです。
All about money、お金に関係ない業務は一つもない。お金というのは利益です。利益に関係ない総務業務は一つもないのです。そういう認識で毎日仕事をすることが大事なのです。
評判管理、期待管理。これはどこで覚えたか知りませんが、これは、FM特有の話ではないですし私特有の話でもないですが、私が学んだ中でたぶん一番大事なCREDOかもしれません。
あなたは、人生で成功したければ二つのことだけ管理すればいいのです。あなたの評判と他の人の期待。この二つを管理することによって人間は成功する。評判と期待です。
私のスタッフで、ある現場で働いている若い女の子がいました。お客さまの社長さんからある報告書を持ってこられて、「これ、いくつか訂正したいところがあるので、これを訂正してください」と頼まれた。うちのスタッフの女の子が、「はい、わかりました」といって受け取ったのです。そして帰ってきた。
その隣に座っていたスーパーバイザーがそれを聞いて、もう怒ったのです。「君、何考えているんだ。今、何やったんだ。なぜそんなことしたんだ」と怒ったのです。かわいそうに女の子は、「いや、社長さんからこれを訂正してくださいと言われてやります」といったわけです。
何がおかしいんですか。なぜスーパーバイザーは怒りましたか。
こういうことです。この社長は、この訂正されたレポートがいつ自分の手に戻ってくることを期待していると思いますか。わかりません。例えば社長はこう思っているかもしれません。「これは大したことないから、30分くらいで返ってくるだろう」と思っているかもしれません。「あなたはいつやるつもりですか」とスーパーバイザーが聞いたら、「これは、きょうは忙しいので、帰る前に直しておいて、明日の朝、社長に渡す予定ですよ」。やってごらんなさい。どうなると思いますか。社長から怒られるのです。
「なぜこんな簡単なものを次の日までかけるんだ」と。なぜ社長は苛立ったと思いますか。自分の期待に沿わなかったから。自分の期待は30分です。だったら、この社員はどうすればよかったですか。期待管理をする必要があったのです。
「わかりました。これはいつほしいですか」と。「30分くらいでできるだろう」「もちろん30分でできるんですが、ちょっとほかの仕事をやっているので、社長さん、その仕事をしなくてもいいというのだったら今やりますが、ふつう任された仕事をするのであれば、今晩、帰る前にするつもりでいるんですが、それでもよろしいですか」「ああ、そうか。君、忙しいんだ。じゃ、大したことないから明日でいいよ」と社長が言う。明日それを提出する。怒られますか。怒られないのです。
評判は、やったことで決まるのではないのです。相手の期待で決まるのです。翌朝、報告書は社長のところに戻っている。両方のシナリオで戻ってきたのです。片方は、怒られる。「あなたは、だめです。なんでこんなにかかるんだ」と怒られる。もう一つは「ありがとう」で終ります。
やったことは同じです。帰る前に訂正して次の朝に出した。何が違いますか。期待管理です。相手が期待していることを変えたのです。評判は、相手の期待でつくられるし、あなたのやっていることで、それは期待に合わせてつくられるのです。これは評判に出てしまう。皆さん一人ひとり評判を持っています。あなたの会社の社員にあなたのことを聞いたら、皆さん一人ひとりあなたについて何か意見を持っていると思いますか。印象を持っていると思いますか。もちろん、「彼はね、こうでああで」という。
私は評判をつくるつもりではなかったのですが、あるこういう講演会で終って名刺交換をやっているんですね。あるおじさんが来て――こんな話をしてはいけないのですが――「クレイグ、覚えていますか」と言う。覚えていない。「どこで知り合いましたか」「小学校が一緒だった」と言うんです。「小学校? 本当?
香川県高松の亀阜小学校で一緒だったんですか」「そうなんです」と言う。「私は6年生で、クレイグは1年生で覚えていないと思うけど」。なんであなたが逆に1年生を覚えているんだと聞きたかったけれども、こんな顔しているから、日本人ばかりの学校でこんな顔した外人は一人しかいないわけだから、5年生も6年生もたぶん1年生にこんなのが入ったと覚えているでしょうね。
でも、「クレイグ、あのときはすごいハレンチだった」といわれたのです。6年生にそんなことをいわれた。スカートめくりばかりしていた。なんでそんな評判があるんだ。いまだに覚えているんですよ。評判って怖いものですね。本当に知らぬ間に1年生の評判が6年生にいってしまったんですね。評判はできてしまうのです。 |