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  平成22年度夏季講演会(平成22年8月26日開催)
「映画『降りてゆく生き方』人をつなげる映画製作の軌跡」
 
       講師 森田 貴英 氏
           弁護士・映画プロデューサー
           BDJ法律会計事務所パートナー                ←講演会トップ
去年の4月に完成しまして、上映しましょうという話になったのです。それまでは映画の配給会社に委ねて上映していこうと思ったんですが、結局いろいろ話していく中で、プロの映画の人間にこの映画を託しても、この自分たちの感じた感動というのはまず伝わらないということが見えてきました。  
どんな映画会社に頼んだところで、それは一つの商売道具にしかならないんだということになるわけです。そのとき私たちは、「俺たちの映画って商品なの?」「消費財なの?」ということをすごく問いかけられました。お金も回収しなくてはいけないという議論もあったんですが、結局いろいろあって、私たちは、専門の映画会社に委ねることはやめるチョイスをしました。
これは自分たちで映画を全国に伝えていこうというチョイスをするわけです。 これは非常に暴挙なんですね。この映画だってお金でいったら億のお金がかかっていますので、普通は広告・宣伝費も同じぐらい、場合によってはそれ以上にかけて、劇場でやって、DVDにして、テレビでやって、ということが普通です。それは誰よりも私が一番よく知っていたところです。私はUCLAの顧問をやり、東京国際映画祭の顧問もやり、そこでプロデューサー教育ということで映画のプロデューサーたちに、あるいは映画会社のエグゼクティブに向けて講義をしていた人間です。結局、悩んだ末に、自分がこれだというふうに進めていた方向はすべて捨て去るという選択をしたわけです。そうでなければこの映画をつくる意味が全くないだろうと思ったのです。ただ、やり方が全然わからない中で、すべてを手放すというチョイスをしたわけです。
そういう中で私たちの気持ちを知ってか知らずか、いろいろな若者たちがこの映画の上映に加わりたいということで動きを始めてくれています。そういったところをNHKが非常にいい感性でキャッチをしてくれて、去年の6月に特集をつくってくれました。どんな映画か、どんな若者たちが関わっているかということをまとめてくれるので、それを10分弱、ごらんいただきたい。
新時代ファイル 〜生き方〜 NHKニュース
「競争社会から降りる」
NHKニュース
次は、社会の新しい動きの中から、今という時代を見つめる年間シリーズ「新時代ファイル」です。
生きていく上で大切なものは何か、その答えを求めて、これまでの生き方を見直し、模索している人たちがいます。きょうから4回シリーズで、そうした人たちの姿やメッセージをお伝えしていきます。
きょうは、映画づくりにかかわる中で、競争社会から降りて、人と人とのつながりや、本当の豊かさを求め始めた若者たちのリポートです。
この映画のタイトルは「降りてゆく生き方」、その
趣旨に共感した多くのボランティアに支えられてつくられました。
 
新潟県ロケ
新潟県でロケが行われたこの映画、限界集落が舞台となっています。武田鉄矢さん扮する金と地位を求める企業戦士が集落を買収にやってきます。金に物を言わすはずだった男性。しかし、村人たちと触れ合ううちに、次第に心の中に変化が生じていきます。そうして男性は、競争第一に生きてきたこれまでのレールから"降りる"決意をしていきます。し
桧原村上映会
東京檜原村です。先月、この映画の上映会が行われました。「降りてゆく生き方」とは何か。映画と同じように過疎化が進むこの村で考えようと企画されました。会場には、村のお年寄りたちに混じって都会で働く人たちも多く参加しました。パイプと布を使った手づくりのスクリーン。この映画は希望のあった地域に出向いて上映されます。運営を支えるのはボランティアの若者たちです。
小林さん
ボランティアの一人、小村亮雄さんです。小村さんは、去年この映画と出会い、8年間勤めた会社を辞めました。競争社会から"降りた"のです。小村さんはアメリカの大手経営コンサルタント会社の社員でした。企業買収などで日々100億円単位のお金を動かしていました。年収も20代で1,000万円を超えました。しかし、休みなく働く生き方に疑問を持つようになりました。そして8年ぶりに帰国した去年、この映画のタイトルに強く心を動かされ、ボランティアをしながら新たな生き方を探し続けています。
「僕が求めてきた豊かさは、大きな会社で働く、大きな仕事をする、そういった生活に対して本当の僕の豊かさとか、何が今やるべきことなのか、"降りてゆく"というのは、本質に近づくものと考えた場合、ああ、僕が今考えていることはひょっとしたらこの映画で伝えようとしていることと何かオーバーラップするものがあるのではないのかなと」。  
映画の上映が始まりました。日本の田舎の原風景に全員吸い込まれるように見入っていました。
「何でも右肩上りで、それがいいことで、そういう価値観を見直してみよう。"降りてゆく"という意味がわからなかったが、きょう映画を見てよくわかりました」。
 
上映会後画像
上映会が終わり、参加者たちはそれぞれの思いを語り始めました。 「檜原村にはコンビニエンスストアもないですし、パチンコ屋もない。若い人はそれを不便だと感じる人が多いのですが、都会のほうが便利だと思うんですけど、ああ、それがないからいいんだ、という考え方もあるわけですね」。
刈谷さん
この中に、映画に出演した俳優の苅谷俊介さんの姿もありました。若いときは役者という仕事のことばかりを考えていたという苅谷さんも、この映画を通してメッセージを送りたいと考えています。
「『降りてゆく生き方』とは何だというのはありますよ。これは難しいなというのがありました。台本を読んでいてずっと見ていると、ああ、これは"降りてゆく"というよりも、何かを取り戻すということなんだろうな、人間が忘れたものを取り戻す映画なんだなと」。
聞いて廻る小林さん
自分とは全く違う生き方をしてきた村のお年寄りたちに、いろいろな話を聞いて回っていました。
「決して経済的に豊か、物質的には便利でなかったかもしれないですが、常に周りには家族がいるとか、誰かがいて支え合ってつながって、内面的には豊かな生活をしていたんだなと」。
秋田さん
エキストラとしてこの映画に参加し、既に生き方を変えた若者がいます。秋田拳さん、28歳です。大手企業のトップセールスマンでしたが、映画の出演を機に去年会社を辞めました。今は東京から新潟県に移り住み、田植えや畑の作業を学んでいます。貯金を取り崩しながらの生活ですが、東京の暮らしではなかった、生きている喜びがあると言います。
「土に足をつけて歩くことがなかったので、何だかわからないけど、気持ちがいいなと感じましたね、単純に。できてくるのが本当に楽しみですね。
早く自分でも田んぼを持ちたいと思いますよね」。
走り続けるだけの競争から"降りた"小村さん。これからの生き方を今模索しています。  これまで見向きもしてこなかった暮らしの発見。生きていく上で大切なものは何か、自分に問いかけています。  
「僕もこれまで都会の中で、それこそこの映画の言葉を借りれば、昇っていく生活をしていたわけですよ。でも、それ以外というか、知らないところがあると思うんですよね。その現実を目のあたりにすることが僕のやるべきことかなと。それを知った上で何ができるのかというのを、一つ一つ自分の中で整理して考えていきたい」。
 
武田鉄矢さん
確かなものはどこにあるのだろうか。小村さんは、武田鉄矢さん演じる企業戦士のように、「降りてゆく生き方」を歩み始めています。
「自分にとって本当の生きる喜びは何なのか、というのを考えさせられますね。人との出会い、地域との出会いといった中で生きていく上での新たな価値観を探し求めているようでしたね」。
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