ちらし広告と印刷
ちらし広告と印刷
本章は1997年に発刊された「ぷりんとぴあ: ちらし広告と印刷」を修正・加筆したものです。
「チラシ広告を自らつくる」
小売業を営む若きCさん。 学生時代からのパソコンの腕を生かし、新聞折り込みチラシを自ら作ろうと決意します。 DTPによるチラシ制作の挑戦が始まりました。
1. Cさんの決意
Cさんは、ある地方の中都市で食品関係を中心とした小売業を営む30代の若き経営者です。 Cさんは、東京の学校を卒業してからしばらくはサラリーマンを経験しましたが、30歳になったのをキッカケに、父親が経営していたこの店で後継者として働きはじめました。 父親が還暦となった数年前に、実質的な経営を任されるようになり、地域密着型の商売方法と持ち前の積極性で商売の規模を拡大してきました。Cさんは、若い経営者だけに父の代のようにお客様が来るのを待っているだけでは物足りなく、お客様の方からこの店に足が向くような積極的な展開をしなければこれからの経営が成り立たないと判断して、宣伝広告に力を入れようと考えています。そこで、Cさんは、まず宣伝広告としてオーソドックスな方法である新聞折り込みチラシに目を向けました。 やはり、地域密着型を目指すからには、地元のお客様をしっかりと取り込む必要があると強く感じたからです。
Cさんは、学生時代から卒業論文などでパソコンをかなり使い込んでおり、パソコンの操作には自信を持っていました。 その経験を活かして、パソコンで何か面白いチラシを作れないかと考えたのです。 まず自分でデザインを作り、それをもとに印刷会社で原版* を作ってもらい、印刷をすればよいと判断しました。 いわゆるDTP (Desk Top Publishing) と言われる方法です。
※原版…印刷の元となる版のこと。 製版作業でこのフィルム原版を作り、そして、印刷機械にかける印刷刷版を作ります。現在では、刷版に直接、絵柄やデータを出力するCTPという方式が一般化しています。
2. パソコンを使ってできること
必要とされる数値を与えて、表現したいグラフの種類を選択すると、欲しいグラフを簡単に書くことができます。 円グラフ、棒グラフなど基本的なグラフから、特殊表現のグラフまで簡単に作ることができるようになっています。 コンピュータの得意とする計算が基本ですから、人間の処理時間などは足元にも及びません。 グラフの表現方法は豊富で、色をつければきれいなカラーのグラフができあがります。
□表計算
この分野もコンピュータが得意とする項目です。 足し算、引き算、割り算、掛け算などの基本的なもの以外にも平均値を出したり、累乗なども自在にできて、集計などに大変便利なため、オフィスでの事務処理の集計業務では必要不可欠な機能です。□文字入力
パソコンの基本的機能の一つです。 ワープロソフトをはじめとしてテキスト入力用のソフトなどがあります。 テキスト入力ソフトは単に文字を入力するだけのものですが、ワープロソフトは、文字の入力以外にもレイアウト機能があり、簡単なページ物なら紙面を作り上げることができてしまいます。□グラフィック (画像) 処理
印刷業界では、デザイナーの人達がグラフィック処理にパソコンを使うと大変便利だということで使い始めたことがDTPの発端だと言われています。 グラフィック (画像) の取り込みや、そのデザイン的加工 (切り抜き処理、色調や階調の変更、画像の変形、元画像への加筆、複数の合成など) ソフトとしてはフォトショップやインデザインが有名ですが、その他にも沢山の画像処理ソフトがあり、従来の方法では表現できなかったデザイン処理や、そのバリエーションの作成など幅広く使われています。 また、デザイン処理の制作時間の短縮などにも効果をあげています。□イラストレーションの作成
イラストなどを原画から起こすのにイラストレータとよばれるソフトウエアが使われています。 従来は紙に向かって色鉛筆などで描いていたイラストなどを、パソコンの画面をキャンバス替わりとしてマウスによってペンとタブレットで書き込んでいきます。 また、地図やロゴマークなどの制作にも、色の選択や線の加工、線幅の自由性などから使われています。□ページレイアウト
実際の紙面を構成していくには、その要素として必要とされる画像やイラスト、表やグラフなどを適切に配置 (レイアウト) し、さらに文字を読みやすいように配置 (組版) していくためのソフトウエアが必要となってきます。マッキントッシュのDTPではインデザイン、クォークエクスプレス、ページメーカーというレイアウトソフトがあります。レイアウトソフトを使うことによって、写真やグラフなどの部品を紙面に貼り込んだり、文字や網に色付けをしたり、文字の種類 (フォント) を選択したり、またその大きさ (ポイント、級数) を指定したりすることができ、紙面のレイアウトが完成します。
こうしてパソコンを使いレイアウトまでできあがったデータを使って原版ページアップする作業がDTPです。
3. 机の上のDTP
このとき、データ画像やテキスト、図版などが含まれた仕上がった状態のものであることが原則となっていますが、画像に関してはデータの容量や再現性の問題があり、制作サイドと印刷会社が相談して、どちらが画像データを作るのか決める場合が必要があります。
そのデータを印刷会社または出力専門のサービスショップに持ち込んで印刷用の原版なるフィルムもしくは直接刷版に出力します。 出力する側は、持ち込まれたデータを一度自社のパソコンに流し、自社の出力機に応じて準備されているRIP※にかけて出力用のデータにしてから、フィルムなどの感材へ出力します。そのフィルム原版が印刷工程に渡り、印刷物がつくられます。
以上の工程(プリプレス工程といいます)をDTPと呼んでいます。
※RIP (リップ) …Raster Image Processorの略で、文字、画像データをラスターイメージ (走査線情報) に変換するためのプロセッサのこと。
4. デジタルデータを操るDTP
DTPでは、基本的にはデザインから製版まで一貫したデータを流すことが可能です。 時間が許すなら一人や一つのグループで製版作業までこなすことができます。 従来の方法では、各工程へ段階的に渡していくので、指示指定が正確に伝わらなかったり、解釈が異なったりしてミスが発生しやすいかたちでした。 しかし、DTPでは一つのデータが最後まで流れるのでそうしたミスは減少します。
また従来法ですと、校正刷りが手元に届くまで印刷見本がないため、校正刷りを見て初めて間違いに気付いたり、その時点で追加指定、修正などを加えることが多くありました。 当然、そこには費用がかかりますし、時間もかかるといったことになってしまいます。
一方DTPで行うと、途中段階でプリンター出力が可能なので、印刷物の仕上がりイメージを早い段階で得ることができ、そのつどチェックが可能です。 また、指定を追加してもまだフィルムあるいは刷版を作成していないので、費用もそれほどかからずに訂正作業が行えます。 訂正が終わってフィルムが出力された段階では完全なものが得られることになります。 逆に、DTPではこうしたことが可能となる運用を心がけることが重要なこととなってきます。
以前は、DTPで作られた印刷物の品質は、あまり良くないといったイメージがありました。 確かに文字関係の組版では従来とまったく同等のものを組み上げるのは難しい面もありますが、それは特殊で複雑なものに限っての場合で、DTPに携わる人々の技術レベルの向上と、「DTPだから、品質はこんなものだろう」 といったとらえ方がなくなった現在は、通常のものに関しては見劣りすることは少なくなってきました。
また、写真の品質は、撮影するデジタルカメラの性能によって大きく左右されます。 印刷会社が使っているDTPに画像データをアップロードすることで、初期どおりの品質のものが仕上げられるようになりました。
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