本づくりと出版印刷
本づくりと出版印刷
・自費出版を考える
・自費出版にチャレンジする
・書籍/雑誌のかたちを知る
・出版印刷の基礎知識を学ぶ
・印刷を発注、出来上がりを待つ
・「電子出版」の動向を聞く
定年を迎えてリタイアしたばかりのTさん。在職していた会社では、スタッフ部門の社員として長い年月、専門的な職務に従事してきたのですが、その分、自分が培ってきた知識を何とかまとめて、もう一度、社会のお役に立ちたいと考え始めました。長年の職業を通じて得た自分なりの知識を眠らせてしまうのは、あまりにも残念に思ったのです。そこで思い浮かんだのが「自費出版」でした。早速、取り掛かる決心を固めました。とにかくチャレンジあるのみです。
自費出版を考える
自費出版に着手するとはいっても、果たしてそれはどんなものなのか。基本的なことでも事前に理解しておかなければ始まらないと、Tさんは思いました。
自費出版の位置づけ
書棚には「印刷」についての専門書もあって、手に取りページをめくってみると、このような本のことを「ページもの」と呼ぶと表記してありました。有料で出版されない本、つまり無料で関係者に配布される社史、社内報、広報誌、機関誌なども「本」の中に含まれるとのことです。ページが綴じられた形で印刷物となるジャンルに属するからだと、すぐに理解できました。
こう考えると、Tさんが自分でつくろうとする本も、発刊するからには、書店に並べるかどうかに関わらず、出版の一種と見做してよさそうです。だからこそ「自費出版」と呼ばれているのでしょう。自費出版の分野でも、自分史、自叙伝、随想集、詩歌集、小説本、学術研究本など、これまたたくさんあることが想像できます。このような個人でつくるものばかりでなく、例えば企業がまとめる社史とか、団体が発行する会報、同人誌とかも考えつきます。
こうしたさまざまな分野のなかからTさんが挑戦してみたかったのは、自分自身の経験上、ある程度、自信のある専門分野の本です。次世代の若い人たちのために、仕事にすぐ役立つような平易な『解説書』に仕立ててみようと思ったのです。
それでは、自費出版が盛んになっている背景は? Tさんが次に関心をもったのは、この点でした。
成熟社会を迎え、人々の生活ニーズは「モノ」から「ココロ」へと移り変わっています。それにつれて、自己実現や自己表現の意欲が高まっているのですが、自費出版はそんな動きのなかで確かな位置を占めるようになったそうです。さまざまな年齢層、あらゆる社会的立場の人が自費出版に興味を示していますが、とくに高齢者の方々が多くなったことも、自費出版による発行点数が増えてきた要因だと知りました。
仕事を通して得た知識を著者の立場でまとめ、それを個人的な関係者や知人たちに知らせたいというニーズが高まっている……「何となく自分に当てはまるな」と、Tさんは心の中で妙に納得したものです。
印刷会社からの支援
聞くところによると、デジタル技術が発展したことによって、文字を組版してページアップし印刷するまで、全工程をデジタルデータで一貫してこなせるようになっているとか。Tさん自身、パソコンで文章を入力できますし、製作を担当する印刷会社も、入稿から仕上がりまで責任をもって仕事してくれるようです。
書店で手に取った書物にも「アナログ時代だったひと昔前までは、小部数の自費出版はコストがかかるため、一般の人が手掛けるのはかなり難しかったが、現在では、DTPやデジタル印刷機の登場によって、例え1冊でも100冊程度でも、誰もが本づくりに取り組めるようになっている」と書かれていました。
パソコンの普及によって、誰でもデータ入稿できるようになり、製作側の対応もデジタル印刷システムやインターネットを駆使することで、小ロット、低価格を希望する顧客のニーズに十分応えられるようになっているという話です。デジタル印刷システムは多種多様な原稿を、極小ロットの印刷物に仕上げられる機能をもっているため、自費出版にもどんどん利用されているそうです。
自費出版の製作には、専門の編集者を付けて店頭販売も意図する本格的な本づくりをめざす出版社ルートと、著者自らが編集と発行を担う印刷会社ルートがあって、後者の方がどちらかというと身近で、著者の個人的な願望や満足感を満たしやすく、しかも少部数の製作でも可能といったメリットがあるとのこと。こうした個々の自費出版に対し、効率的な製作工程を備えてきちんと対応してくれる印刷会社が、全国各地に、もちろんTさんが住む地元の街にもあることが判り、まずは一安心です。
印刷業界でも、新しいビジネス分野として、自費出版の市場に期待しているということです。Tさんも大いに納得したところでした。
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本章は1997年に発刊された「ぷりんとぴあ: ちらし広告と印刷」を修正・加筆したものです。
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