4.紙の風合い
あなたの感性で手触り感、質感を大切にしてほしい
(1)紙の特性を決めるソフトな尺度
紙の特性を決める重要な要素に「風合い」という尺度があります。私たちが身近に接するだけに、紙には、人間の繊細な感性に応えることのできる“ソフト”な役割が求められます。日本古来の和紙が発する独特な雰囲気を頭に想い描いてみてください。
紙の風合いを左右するのは、手にもったときの厚さ、重さ、嵩(束)、硬さ/柔らかさ、目にしたときの光沢度、平滑性、白色度、色相などが挙げられるのですが、決して科学的、物理的な基準ではなく、いってみれば手触り感や質感(しっとり感)といったものです。艶消ししたマット調、ダル調の紙が好まれるのも、優しさや落ち着きを欲する人々のニーズと無縁ではないでしょう。
繊維の分布状態(流れ方、集まり具合など)を示す「地合い」も、風合いを決める要素となります。これは、紙の品質を左右するもっとも基本的な要件でもあります。繊維が均一に分布している紙は、それだけ丈夫かつしなやかで、しかも光沢ムラのないきれいな印刷にも適しているのです。
印刷用紙の表面が平滑なほど、印刷インキが鮮やかになるという性質があります。表面が滑らかな白いグロスコート紙やアート紙が高級カラー印刷に向いているのは、このためです。これと比べ、表面に目に見えないながらも凹凸がある非塗工紙は、光が乱反射する関係で印刷の色が沈んで見えます。その代わり、表面が光っていない分、見た目にもやさしく、文字を読む必要のある書籍などに適しているのです。
非塗工の上級印刷紙に分類される「書籍用紙」は、文字どおり書籍の本文ページ専用につくられている紙で、読者の目を疲れさせないように、填料(灰分)を多めに配合し、クリーム色に着色することで、透明感のない柔軟な表面に仕上げてあるのが特徴です。これなども、まさに風合いを意識した好例といえるでしょう。
表面に特有な模様や微妙な色彩がついた紙に「ファンシーペーパー」と呼ばれるものがあります。木材パルプ、古紙、非木材、各種の廃材などさまざまな繊維を原料として意識的に混ぜ合わせるとともに、凹凸加工(エンボス)や染色を施すことによって、表情に富んだ個性的な紙に仕上げているのです。こうした特殊紙も、人間の感性に応えられる風合いと手触り感をもった紙といえるでしょう。
(2)五感を駆使すれば確認できる
紙は、このように人間の5感に訴える要素に満ちています。このことを逆に辿れば、5感を利用して紙の性質を理解できるといえそうです。印刷会社では、見本帳と身比べるのはもちろん、ルーペで地合いを見たり、計測器(マイクロゲージ)で紙厚を測ったり、それなりに科学的な方法で紙質を調べているのですが、皆さんもまずは、次のような方法で確かめてみてください。紙の対して一層の親しみが湧くことでしょう。
・破ってみる=繊維の長さ、流れ目の方向、厚さ、塗工量が理解できます
・指を滑らせてみる=平滑の度合いが感覚的に掴めます
・光にかざしてみる=透かすことで繊維の並び具合(地合い)がわかります
・絵柄の上に置いてみる=不透明度を他の紙と比べることができます
・指で弾いてみる=指の間に挟んでパチンと鳴らすと、厚さやコシの強さがわかります
・斜めからみてみる=光線を斜めに当てると、塗工の状態がつかめます
・水を垂らしてみる=水分の浸み込み具合(浸透度)や伸び縮みが把握できます